抗不整脈薬については種類が多く複雑で苦手意識を持っている人が多いですよね。循環器の勉強を難しくしている原因の1つだと思います。
少しでも理解の助けになるよう、薬学生時代に使っていたゴロをご紹介します!
まずは分類から覚える!
Vaughan Williams分類(ボーンウィリアムス)が従来使われていましたが、現在はSicillian Gambit分類(シシリアンガンビット)が主流のようです。
ですが、学生が最初に薬理作用を学んでいく際にはVaughan Williams分類がシンプルなので、そちらで教えている大学がほとんどです。
ちなみに医学部で2回目の薬理学を履修した時もこのVaughan Williams分類で教わりましたよ。
なぜこの分類を使うのかというと、心臓の電気生理と合致していて教えやすいからです。
簡単におさらいしておきます。
洞房結節や房室結節は主にCaの流入によって興奮し、心室筋はNa、Ca、Kが関与しています。→Na、Ca、Kのそれぞれのチャネル遮断薬が有効!
そしてβ受容体によって洞房結節や房室結節のCaチャネル開閉がコントロールされています。→β遮断薬が有効!
Vaughan Williams分類は何のチャネル・受容体を阻害するかで1〜4群に分けられています。
1〜4群の順に
Ⅰ群:Naチャネル遮断(な)
Ⅱ群:β受容体遮断(べ)
Ⅲ群:Kチャネル遮断(かり)
Ⅳ群:Caチャネル遮断(よっか)
ごのゴロを使って、まず◯群は何を遮断するのか、頭の中に棚を作りましょう。
次はそれぞれの群のゴロです。
Ⅰ群
Naチャネル遮断→細胞内のNa濃度下がるため取り込もうとNa/Ca交換が亢進→Ca2+が細胞外へ出されて心筋収縮力が低下(陰性変力作用)します。
そのため心不全などの症例に使いにくいことが想像できると思います。
Ⅰa群
Naチャネル遮断、Kチャネル遮断作用を持ちますのでQTが延長します。
Ⅰb群
Naチャネル遮断、Kチャネル開口作用があるため、QTが短縮します。
Ⅰc群
Naチャネル遮断、Kチャネルには影響しませんのでQTは不変です。
Ⅱ群
β遮断薬は語尾が「ォロール」
→プロプラノロール
これは大事で、β刺激薬なのか、遮断薬なのか見分けるのに役立ちます。
<練習問題>
次の薬剤がβ刺激薬か、遮断薬か答えよ
イソプロテレノール→
Ⅲ群
Kチャネル遮断作用のため、QTは延長します。
Ⅳ群
レートコントロール
心拍数(ハートレート)を下げる薬剤は以下を覚えておいてください。
これらは洞房結節の伝導を抑制するためレートコントロールとして用いられます。B、C、Dで覚えやすいかと思います。
また、これらの薬剤はWPW症候群の偽性心室頻拍に禁忌となります。
理由は、正常な伝導路を抑制するため、副伝導路が活性化し、心室細動などの致死的な頻脈をきたしてしまうためです。
心房性・心室性頻脈のどちらに効くか
それぞれの薬剤が心房性の不整脈に効くのか、心室性の不整脈に効くのか覚えるのは大変ですよね。上の絵を書くだけで思い出せるので覚える必要すらありません。
上は心房、下は心室です。ほとんどの文字は真ん中の線に対して対称になっています。
例外として、bは下に偏っており、Ⅳとジは上に偏っています。つまりⅠb群は心室性不整脈に、Ⅳ群とジギタリス製剤は心房性不整脈に適しているということです。
Ⅳ群とジギタリスは主に心房性
・QT間隔延長→QT延長するⅠa群を避ける
以下はメカニズムです。知りたい人だけ読んでください。
Ⅰb群のリドカインはNaチャネルへの結合や解離が早く、なかでも不活性化状態のチャネルに親和性が高い薬です。
心房は収縮時間が短く、拡張している時間が長いため拡張の間にチャネルから解離してしまいます。そのため心房の頻拍には効果が薄く、主に心室頻拍(VT)に効果を発揮します。
洞房結節は主にCaの流入によって脱分極を起こすため、Ⅳ群のCa拮抗薬は心房性頻拍によく効きます。
ジギタリスは迷走神経刺激作用、房室結節の興奮伝導抑制作用によって洞房結節からの興奮を抑制することができます。
これはジギタリスが心室性頻脈に禁忌であることもカバーしているので必ず覚えておきましょう!
第104回からは薬剤師国家試験も禁忌肢が導入されますからね。私も医師国家試験で禁忌肢を選ばないよう気をつけないといけません。
副作用
副作用についてもパッと想像しにくい意外なものがあります。
医師国家試験で理解度をチェック!
医師国家試験 93F8
20歳の男性。学校心臓検診で心電図異常を指摘されていたが,日常生活の制限はしていなかった。今朝,寝ていて動悸が出現し,数時間たっても止まらないので来院した。血圧102/60mmHg。以前の健康診断時の心電図(A)と発作時の心電図(B)とを示す。
適切な初期治療薬はどれか。
医師国家試験 100E27
頻脈に使用されるのはどれか。
a アトロピン
b アドレナリン
c ニトログリセリン
d プロプラノロール
e イソプロテレノール
医師国家試験 106A58
72歳の男性。動悸を主訴に来院した。10年前から高血圧を指摘されていたが、自覚症状がないため受診しなかった。2日前から感冒症状があった。6時間前から動悸を自覚し、改善しないため受診した。呼吸困難やめまいはないという。脈拍144/分、整。血圧120/76mmHg。心音と呼吸音とに異常を認めない。心電図を別に示す。
治療薬として適切なのはどれか。2つ選べ。
a アトロピン
b ニトログリセリン
c プロプラノロール
d ベラパミル
e リドカイン
医師国家試験 94D28
55 歳の女性。動悸と呼吸困難とを主訴に来院した。5 年前に僧帽弁置換術を受けている。現在ジギタリス、フロセミドおよびワルファリンの投薬を受けている。術後の代表的な心電図(A)と来院時の心電図(B)とを示す。
この患者に静脈内投与で用いる治療薬はどれか。
a トロンビン
b アトロピン
c アミノフィリン
d 塩化カリウム
e プロカインアミド
医師国家試験 114E41
72歳の男性。下腹部痛を主訴に来院した。
現病歴:10年前から高血圧症で通院中であり、降圧薬による内服療法を受けている。1か月前から動悸を伴う心房細動が出現し、抗不整脈薬と抗凝固薬の処方も受けていた。昨日昼から尿が出ず、下腹部が張ってきていたが様子をみていた。今朝、下腹部の痛みで目覚め、症状が増悪するため受診した。
既往歴:特記すべきことはない。
生活歴:喫煙歴は20本/日を40年間。飲酒は日本酒1〜2合/日。
家族歴:父親が68歳時に胃癌で死亡。
現 症:意識は清明。身長165cm、体重61kg。体温36.9℃。脈拍52/分、不整。血圧142/94mmHg。呼吸数18/分。SpO2 96%(room air)。頸静脈の怒張を認めない。心尖部を最強点とするII/VIの収縮期雑音を認める。呼吸音に異常を認めない。腹部は下腹部が膨隆し、圧痛を認める。下腿浮腫は認めない。腹部超音波検査で膀胱容積は拡大しており、尿道カテーテルを一時的に留置することとした。
不整脈は絡んでこないので選択肢と解答は省略します。
この症例はおそらく1ヶ月前の時点で抗コリン作用のあるジソピラミドなどの抗不整脈薬が投与されて尿閉に陥ったものと考えました。前立腺肥大が背景にあるのかもしれません。
以上となります。
最後まで読んでいただき有り難うございます。
少しでも参考になれば幸いです。
コメント