抗菌薬のスペクトラム。初学者にとってなかなか覚えられない最初の関門ですよね。
おおまかにでもわかるように記事にしてみました。
細菌側と抗菌薬側の2つの視点から見てみると理解が深まるかもしれません。しばしお付き合いください。
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最終的に覚える表
細菌側から見てみる
細菌を性質によって分けてみると見通しがたちやすいかもしれません。
まずは次のように分けてみましょう。
・グラム染色で染まらない(非定型)
・緑膿菌(耐性菌)
・嫌気性菌
・らせん状
⚫︎グラム染色で染まるということは、細胞壁があるということですので、細胞壁合成阻害作用のあるβラクタム系のペニシリン系やセフェム系が効きます。(後述します。)
⚫︎グラム染色でそまらないということは、宿主細胞の中に寄生しているということになります。そのため脂溶性が高く細胞内へ入り込めるマクロライド系やテトラサイクリン系、ニューキノロン系が有効です。
⚫︎らせん状の菌は外膜が薄いのかわかりませんがペニシリン系が効きます。脂質であるエンベロープに包まれているため、脂溶性のマクロライド系やテトラサイクリン系も効きます。
・緑膿菌と嫌気性菌は、色んな抗菌薬に耐性を持っているので、他とは分けて覚える必要があります。
グラム陽性菌・陰性菌
まずグラム陽性なのか、陰性菌なのかを判断します。
次に大原則として、以下のことを押さえてください。覚えやすさのためだいぶ簡略化してます。
グラム陰性菌→セフェム系
セフェム系は正確にはセファロスポリン系とセファマイシン系に大別されますが、第○世代と言っているのはセファロスポリン系を指すということを覚えておいてください。
グラム陰性菌にはポーリン(porin)という孔が開いています。ペニシリン系はここを通れませんが、それを通れるように世代ごとに改良したのがセファロスポリン(Cephalosporin)系です。そのためグラム陰性菌にも効くと考えると覚えやすいのではないでしょうか。
もちろん、耐性菌は例外です。
非定型
細胞壁がない菌や細胞内寄生菌に対しては細胞壁合成阻害系であるペニシリン系やセフェム系といったの抗菌薬は無効です。
そのため細胞膜を通過できる脂溶性の高い抗菌薬が適しています。
<細胞内に寄生>
マイコプラズマ、リケッチア、
クラミジア、レジオネラ
ニューキノロン系
また、マクロライド、テトラサイクリン、ニューキノロンは脂溶性が高いため、胆汁中に排泄されます。
そのため、食中毒の際に用いられることが多いです。
緑膿菌
緑膿菌はいろんな抗菌薬に耐性を持ち、院内感染を起こす重要な菌です。そのため他と分けてあります。
緑膿菌に効く抗菌薬は重要なので、連想とゴロで覚えましょう。
ニューキノロン
アミノグリコシド
カルバペネム
いずれも広域の抗菌薬という点から連想してもOKです。
残りのペニシリン系、セフェム系はゴロでどうぞ
セフタジジム
ピペラシリン
セフェピム
嫌気性菌
横隔膜の上と下で分けるといいみたいです。
<上(口腔内)>
ペプトストレプトコッカス、プレボテラ、
フソバクテリウム
<下(腸管内)>
バクテロイデス、クロストリジウム
すみません、抗菌薬についてはゴロを作れていません。連想でいきましょう。
広域抗菌薬であるβラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリンとカルバペネム系は、嫌気性菌にもスペクトラムをもちます。
分子の中に酸素原子Oをもつセフェム系(セフメタゾール・フロモキセフ)も酸素が嫌いな嫌気性菌に効きやすいと予想できます。
名前からこじつけましょう。Cefmetazole、Flomoxef
リンコマイシン系のクリンダマイシンと、メトロニダゾールもO原子を持ちます。
<横隔膜の上>
クリンダマイシン
<横隔膜の下>
βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン、
カルバペネム系、メトロニダゾール、
セフメタゾール、フロモキセフ
らせん状
スピロヘータ(梅毒、ライム病、レプトスピラ)にはペニシリン系やテトラサイクリン系が効きます。
カンピロバクターやヘリコバクター・ピロリもらせん状であり、マクロライド系やペニシリン系が効きます。
細菌側からのまとめ
菌 | 抗菌薬 | 耐性菌の場合 |
---|---|---|
グラム陽性菌 | ペニシリン系 第1世代セフェム系 | MRSA:バンコマイシン PRSP:第3世代セフェム系 VRE:リネゾリド |
グラム陰性菌 | 第2〜3世代セフェム系 βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン | BLNAR:第3世代セフェム系 ESBL産生大腸菌:カルバペネム系 |
非定型 | テトラサイクリン系 マクロライド系 ニューキノロン系 | |
緑膿菌 | ニューキノロン系 アミノグリコシド系 カルバペネム系 ピペラシリン セフタジジム・セフェピム | MDRP:アミノグリコシド系、βラクタム系、コリスチン |
嫌気性菌 | リンコマイシン系 βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン カルバペネム系 セフメタゾール・フロモキセフ メトロニダゾール | |
らせん状 | ペニシリン系 テトラサイクリン系 マクロライド系 |
一応、耐性菌の欄も書きましたが、最初は菌と抗菌薬の欄だけを覚えてください。
抗菌薬側から見てみる
細菌側から見た後は、抗菌薬側からもどんな抗菌薬が有効なのか見てみると理解が深まります。
まずはまとめです。わかるまで何度もこの表に戻ってきてください。
系統 | 特徴・スペクトル |
---|---|
ペニシリン系 | グラム陽性菌・らせん状 |
セフェム系 | グラム陽性〜陰性菌 (世代が進むごとに陰性もカバー) (腸球菌、嫌気性菌、リステリアは無効) |
カルバペネム系 | ESBLやAmpCなどの耐性菌、重症時 (腸球菌、MRSA、非定型は無効) |
グリコペプチド系 | MRSA専用(静注) 偽膜性大腸炎(経口) |
アミノグリコシド系 | 緑膿菌を含むグラム陰性桿菌 一部のグラム陽性球菌 |
マクロライド系 | 非定型(マイコプラズマ、クラミジア) グラム陽性菌(ペニシリン使えない時) |
テトラサイクリン系 | 非定型(特にリケッチア) スピロヘータ |
ニューキノロン系 | 緑膿菌+非定型、グラム陰性桿菌 (嫌気性菌は無効) |
リンコマイシン系 | 嫌気性菌(横隔膜より上) |
メトロニダゾール | 嫌気性菌(横隔膜より下) ピロリの 二次除菌 |
例えば、名前に「ライド」とか「サイクリン」と付くと環状構造を持ちます。環状だと炭素が多い=脂溶性が高く細胞膜を通過しやすいので細胞内寄生菌(非定型)に効きます。
ペニシリンやバンコマイシンなどの細胞壁合成阻害の薬は壁(ペプチドグリカン層)の厚いグラム陽性菌に効きやすいです。そこから派生して作られた薬剤はどんどんグラム陰性菌にも効くように作られているのでスペクトラムがそちら寄りになっています。
下の記事を参考にしてください。
特にごちゃごちゃしているペニシリン系とセフェム系を解説していきます。
ペニシリン系
基本的にグラム陽性菌に適しています。
ペニシリンG:連鎖球菌、肺炎球菌、梅毒
アンピシリン:連鎖球菌、肺炎球菌、大腸菌
ピペラシリン:グラム陽性〜陰性桿菌(広域)、緑膿菌
<βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン>
アンピシリン/スルバクタム
ピペラシリン/タゾバクタム:グラム陰性菌、緑膿菌、嫌気性菌
ペニシリンにアミノ基を導入したのがアンピシリンで、そのため大腸菌にも効くようになっています。
アンピシリンより更にスペクトラムを広くしたのがピペラシリン(広域ペニシリン)で、広域の名の通り、緑膿菌までカバーします。
βラクタマーゼ(特にペニシリンを分解するペニシリナーゼ)を産生するのは黄色ブドウ球菌、グラム陰性菌、嫌気性菌です。
そのため、βラクタマーゼ阻害薬を配合することで黄色ブドウ球菌、グラム陰性桿菌、嫌気性菌に対しても効くようになっています。
また、黄色ブドウ球菌にはペニシリナーゼの効かないセフェム系が適します(大原則の例外)。
セフェム系
ペニシリン系を改良して作られたため第一世代はグラム陽性菌が得意ですが、新しい世代ほどグラム陰性菌にもスペクトラムが広がっています。
2・3・4世代はそれぞれPEK、HaM、SPACEの菌に適しています。
PEK: Proteus mirabilis, Escherichia coli, Klebsiella pneumoniae
尿路感染症の三大起因菌
HaM: Haemophilus influenzae, Moraxella catarrhalis
呼吸器感染の起因菌
SPACE : Serratia marcescens, Pseudomonas aeruginosa, Acinetobacter baumannnii, Citrobacter freundii, Enterobacter cloacae
院内感染の起因菌
特徴的かつ頻繁に処方されるものをピックアップしました。
1st(セファゾリン):MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)
→手術部位感染(SSI)予防
2nd(セフォチアム・セフメタゾール):PEK→尿路感染症
セフメタゾールは嫌気性菌・ESBL産生菌
→下腹部のSSI予防・ESBL産生菌感染症
3rd(セフトリアキソン・セフタジジム):PEK+HaM→肺炎・髄膜炎
セフタジジムは緑膿菌に有効
4th(セフェピム):PEK+HaM+SPACE(緑膿菌)→広域抗菌薬
なかでもセフタジジムは極端で面白いです。緑膿菌にも効くように作られたセフタジジムは元々得意であったはずのグラム陽性球菌に効きにくくなってしまいました。
一方、セフトリアキソンは肝・腎排泄のハイブリッドなため、腎障害があっても減量せずに使える特徴に加え、半減期が長いため時間依存のβラクタム系なのに1日1回でいいという便利な薬です。
いかがでしょうか。2つの視点から見てみましたが、得意な側から覚えてみてください。
そして逆の側から見てみると、フッと繋がるタイミングが来ると思います。
国家試験問題で理解度をチェック!
薬剤師国家試験 103回問300
70歳女性。3日前から全身倦怠感、前日から38℃台の発熱があった。起床時に立ち上がることができなかったため、救急搬送された。
<搬送時の検査データ>
意識やや混濁、血圧82/56 mmHg、心拍数105 bpm、呼吸数23回/min、
酸素飽和度93%、体温38.6℃、左肋骨脊柱角に叩打痛あり、白血球数16,500/µL、
CRP 20.8 mg/dL、BUN 41.5 mg/dL、Cr 2.3 mg/dL
尿のグラム染色では、大腸菌を疑わせるグラム陰性悍菌を多数認めた。
救急外来でブドウ糖加乳酸リンゲル液の点滴を行ったところ、意識状態、血圧、心拍数に改善が認められた。この時点で、抗菌薬を投与することとなった。薬剤師が推奨すべき抗菌薬として、最も適切なのはどれか。1つ選べ。
- ベンジルペニシリンカリウム
- セフトリアキソンナトリウム
- ダプトマイシン
- エリスロマイシンラクトビオン酸塩
- リネゾリド
薬剤師国家試験 104問230
28歳女性。 8月10日の夜間に下痢、発熱、腹痛を訴えて救急外来を受診した。医師が問診したところ、同日の昼間に料理教室で卵を用いた洋生菓子を作り、それを食べたとのことであった。一緒に料理教室に行った友人5人も同じ物を食べ、同じ症状を訴えているという。問診の結果から、医師は細菌性食中毒を疑い抗菌薬を投与することにした。
患者の受診当日、医師は、処方可能な経口抗菌剤について薬剤師にアドバイスを求めた。薬剤師が提案すべき薬剤として最も適切なのはどれか。1つ選べ。
1 バンコマイシン塩酸塩散
2 クラリスロマイシン錠
3 イトラコナゾール錠
4 レボフロキサシン錠
5 イベルメクチン錠
医師国家試験 109I6
耳痛を訴える2歳9か月の男児の鼓膜の写真を別に示す。
a ペニシリン系b マクロライド系c ニューキノロン系d テトラサイクリン系e アミノグリコシド系
医師国家試験 109I7肺炎と抗菌薬の組合せで正しいのはどれか。a 市中肺炎 ——— グリコペプチド系b 院内肺炎 ——— テトラサイクリン系c 非定型肺炎 ——— アミノグリコシド系d 特発性器質化肺炎 ——— ニューキノロン系e 人工呼吸器関連肺炎 ——— カルバペネム系
医師国家試験 111I66
68歳の男性。発熱、咳嗽および膿性痰を主訴に来院した。5日前から発熱、3日前から咳嗽および膿性痰が出現したため受診した。意識は清明。体温39.2℃。脈拍124/分、整。血圧88/60mmHg。呼吸数24/分。SpO2 93%(room air)。両側の胸部にcoarse cracklesを聴取する。血液所見:白血球18,800(桿状核好中球4%、分葉核好中球84%、単球2%、リンパ球10%)。CRP 19mg/dL。胸部エックス線写真の正面像(A)、側面像(B)及び喀痰のGram染色標本(C)を別に示す。同日、敗血症を疑い血液培養を行った。
現時点の対応として正しいのはどれか。
a 抗菌薬を投与せず薬剤感受性の結果を待つ。
b アムホテリシンBの点滴静注を開始する。
c ゲンタマイシンの点滴静注を開始する。
d スルバクタム・アンピシリン合剤の点滴静注を開始する。
e レボフロキサシンの点滴静注を開始する。
薬剤師国家試験 104問326
55 歳女性。159 cm、60 kg。卵巣がんにて、パクリタキセル、カルボプラチン、ベバシズマブを用いた外来化学療法を施行している。来院日の臨床検査値から判断して、医師はレノグラスチム注100 µgを投与して、以下の処方を追加した。
臨床検査値は、体温37.8℃、白血球数2×103個/µL、好中球40%(白血球百分率)、血清クレアチニン値 0.64 mg/dL、eGFR 74.0 mL/min/1.73 m2であった。(処方)
セフカペンピボキシル塩酸塩錠100mg 1回1錠(1日3錠)
1日3回 朝昼夕食後 5日分薬剤師はこの処方に疑義を抱いた。薬剤師が行う処方提案として、適切なのはどれか。2つ選べ。
- セフカペンピボキシル塩酸塩錠100mgを1回1錠、1日2回朝夕食後にする。
- セフカペンピボキシル塩酸塩錠100mgを1回1錠、1日1回朝食後にする。
- レボフロキサシン錠250mgを1回1錠、1日1回朝食後にする。
- レボフロキサシン錠500mgを1回1錠、1日1回朝食後にする。
- シプロフロキサシン塩酸塩錠100mgを1回2錠、1日2回朝夕食後にする。
医師国家試験 113D57
61歳の男性。発熱と皮疹を主訴に来院した。一昨日から発熱があり、昨日から体幹に紅斑が出現した。本日になり紅斑が四肢にも広がってきたため来院した。発熱は持続し、頭痛を伴っている。紅斑に痒みは伴っていない。腹痛や下痢を認めない。1週間前に山に入り、伐採作業をした。同様の症状を訴える家族はいない。意識は清明。身長162cm、体重62kg。体温38.8℃。脈拍96/分、整。血圧146/88mmHg。呼吸数20/分。SpO2 97%(room air)。体幹・四肢に径2~3cmの紅斑が散在する。右鼠径部に、周囲に発赤を伴った直径5mmの痂皮を認める。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。咽頭の発赤や扁桃の腫大を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。神経診察に異常を認めない。関節の腫脹を認めない。尿所見:蛋白(-)、糖(-)、潜血(-)。血液所見:赤血球488万、Hb 14.1g/dL、Ht 42%、白血球4,300(桿状核好中球12%、分葉核好中球55%、好酸球1%、好塩基球1%、単球15%、リンパ球16%)、血小板9万。血液生化学所見:総蛋白7.5g/dL、アルブミン3.9g/dL、総ビリルビン0.9mg/dL、AST 76U/L、ALT 46U/L、LD 356U/L(基準176~353)、γ-GTP 45U/L(基準8~50)、CK 46U/L(基準30~140)、尿素窒素22mg/dL、クレアチニン0.9mg/dL、血糖96mg/dL、Na 134mEq/L、K 4.4mEq/L、Cl 98mEq/L。CRP 7.4mg/dL。
適切な治療薬はどれか。
a ペニシリン
b アシクロビル
c アミノグリコシド
d アムホテリシンB
e テトラサイクリン
薬剤師国家試験 106回 問296
50歳男性。5年前に病院の循環器内科で僧帽弁閉鎖不全症を指摘され、外来で経過観察中であった。2ヶ月前に歯肉炎のため歯科で処置を行った後、持続性の発熱、全身倦怠感、腰痛及び四肢に点状出血を認めたため、精査目的で入院となった。
聴診により心尖部で収縮期雑音が聴取された。また、血液培養によって、Streptococcus salivarius(緑色レンサ球菌の一種)が同定され、薬剤感受性試験を行ったところ、以下のような結果が得られた。
この患者に投与する抗菌薬と投与期間の組合せとして、適切なのはどれか。1つ選べ。
以上となります。
最後まで読んでいただき有り難うございます。
少しでも参考になれば幸いです。
人に教えることで私も勉強になるのでご不明な点があればお気軽にお問合せください。
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