薬学生の方から凝固カスケードがわかりませんというお問い合わせをいただいたので解説してみました。
ついでにワーファリンの作用機序に絡めてみました。
凝固カスケード
一次止血は血小板が主な役割を担っていますが、二次止血では凝固因子が主役です。
凝固カスケードでは、凝固因子は活性化されて、下流の凝固因子を活性化します(例えばⅫ→Ⅻa:aはactivatedのa)。
下の図では、活性化された因子は省略して簡略化してまとめています。
凝固因子は、内因系・外因系・共通系の3つに大別されます。
◆内因系
血管内の凝固因子から開始されるため内因系といわれます。
あ〜=APTT
胃に=Ⅻ
いい=Ⅺ
クッパ=ⅨとⅧ
ない=内因系
内因系の凝固因子の活性はAPTTで測定します。
◆外因系
破壊された内皮細胞由来:血管外の因子(組織因子:Ⅲ)から開始される。
外=外因系
みんな=ⅢとⅦ
パーティー=PT(プロトロンビン時間)
外因系の凝固因子の活性はPTで測定します
◆共通系
内因系と外因系以外の凝固因子がこれに該当します。
掛け算です。Ⅰ、Ⅱ、Ⅴ、Ⅹ因子。掛け算は皆んながわかる共通の計算ですね。
なかでも、内因系と外因系が合流するⅩ因子は重要で、ここを阻害すれば内因系由来でも外因系由来でも凝固カスケードを止められます。
リバーロキサバンやアピキサバンなどのDOAC(直接経口抗凝固薬)はⅩaを直接阻害して抗凝固作用を発揮します。
あとはⅠがフィブリノゲン、Ⅱがプロトロンビンということを押さえておけばいいでしょう。
肝細胞癌との繋がり
PIVKA-Ⅱ(protein induced by vitamin K absence)は、その名の通りにビタミンKが欠如した状態で誘導されるタンパクです。
Ⅱは先程の凝固因子のⅡ、つまりPIVKA-Ⅱは凝固活性のないプロトロンビンのことです。
ワルファリン投与時にも上昇します。
肝細胞癌では正常なタンパク合成が行えていないのでマーカーとしてPIVKA-Ⅱが上昇します。
凝固カスケードの書き方
これまでのゴロで共通系、内因系、外因系を覚えたら、あとはY字の形にあてはめるだけです。
原則として、上から下に大きい数字から書いていきます。
例外として、外因系だけは3を7より上に書きます。以上です。
ワーファリン®の作用機序
ワルファリン(商品名ワーファリン)は、1962年から日本で使用され続けている歴史の長ーい薬です。薬の値段(薬価)は年々下げられますから、歴史が長いということは安い薬ということです。
経口投与する薬です。
肝臓においてビタミンK産生を阻害して、ビタミンKの存在下で産生される凝固因子がつくられるのを阻害します。
→作用が発現するまでに時間がかかります。12〜24時間ほど!
産生されるのにビタミンKを必要とする凝固因子をビタミンK依存性凝固因子といいます。これのゴロはよく知られています。
肉=ⅡとⅨ
納豆=ⅦとⅩ
ゴロの中に、ワーファリン服用患者に禁忌の「納豆」が入っているのもいいですよね。
ワーファリン 服用中には、納豆は納豆菌というビタミンKを大量に産生する細菌が多く含まれているため摂取を禁止されます。
面白いことに、ワーファリンの主な代謝酵素はCYP2C9(肉)なのでついでに覚えてしまいましょう。
PT-INRでワーファリンの効果をモニタリングする
ワーファリンは凝固因子の産生を低下させて血を固まりにくくする薬です。
ですので当然効きすぎれば出血しやすくなります。そのため、凝固能の指標としてプロトロンビン時間をモニタリングします。
ビタミンK依存性の凝固因子は肉納豆ですから、内因系と外因系両方の凝固因子の産生を抑制するのでAPTTもPTも延長します。
しかし、外因系のⅦ因子は半減期が1.5〜5時間と群を抜いて短いため薬効を鋭敏に反映します(例えば半減期が10日くらい長いと10日前の状態を反映しているのか、今の状態を反映しているのかわかりませんよね)。だからPTをモニタリングするのです。
心房細動では、PT-INRを以下のようにコントロールします。(2020年改訂)
先ほどの納豆菌のように、腸内細菌によってビタミンKが産生されます。抗菌薬を投与すれば腸内細菌叢が乱れ、ビタミンK産生量が低下し、PT-INRが上昇することがあります。
薬剤師国家試験で理解度をチェック!
第101回薬剤師国家試験 問308より引用
62歳男性。切除不能の再発直腸がんに対してカペシタビンとオキサリプラチン併用化学療法を開始することになった。
外来化学療法室の薬剤師は男性には循環器内科の受診歴があり以下の薬剤を服用中であることを確認した。
メチルジゴキシン錠0.1mg
1回1錠(1日1回) 朝食後ワルファリンK錠1mg
1回2錠(1日1回) 朝食後カンデサルタン錠4mg
1回1錠(1日1回) 朝食後問308
薬剤師は以下の検査データを確認した。化学療法の開始に伴う相互作用による重篤な副作用を回避するため定期的にモニタリングすべき検査データとして特に重要なのはどれか。1 つ選べ。1 クレアチニンキナーゼ値
2 PT-INR 値
3 血清カリウム値
4 血糖値
5 白血球数
111回医師国家試験 D11より引用
ワルファリンについて正しいのはどれか。
a 直接トロンビン阻害薬である。b プロテインCの作用を増強する。c 納豆はワルファリンの作用を増強する。d 重篤な肝障害の患者では効果が減弱する。e 薬効のモニタリングにPT-INRを用いる。
以上となります。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
少しでも参考になれば幸いです。
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