医師国家試験でも薬剤師国家試験でも出題されやすいQT延長症候群について記事にしてみました。
QT延長症候群の原因薬剤はどんなものがあるのでしょうか。
後天性QT延長症候群(LQTS)
後天性(二次性)LQTSは、安静時のQT時間は正常範囲か境界域であるが、抗不整脈薬などの薬剤、低K +血症などの電解質異常、徐脈など誘因が加わった場合にQT時間が著明に延長し、TdPを発症する。
国立循環器病研究センターHPより引用
原因となる薬剤や病態は以下の通りですが、投与している薬剤によって電解質異常が起こり、それによりTdPが起こることも考えると、原因は主に薬剤です。
QT延長症候群(先天性・二次性)とBrugada症候群の診療に関するガイドライン(2012年改訂版)より引用
覚え方としては、Ca・Mg・Kの低下でQT延長が起こることをまずおさえてください。
おさらいですが、心筋の心電図は心筋細胞へのNa流入→Ca流入→K流出で構成されていました。だからこそ抗不整脈薬はそれらのチャネルに作用したのでしたね。
高の原中央病院 DIニュース 2017 年 1 月号より引用
低Ca血症では心筋細胞へのCa流入が遅れ、収縮(QRS波)が遅れてQTが延長します。
低K血症では再分極が遅れてT波が遅れてQTが延長します。
低Mg血症では低Ca・K血症を惹起するため上記の所見を呈します。
あとはこれらを引き起こす薬剤を繋げていきます。
Ca:ニューキノロン系(キレート形成で吸収低下)
Mg:PPI(pH上昇で吸収低下)、利尿薬
K:Kチャネル阻害薬(Ⅰa群・Ⅲ群抗不整脈薬、マクロライド系、三環系抗うつ薬、抗精神病薬)、K低下(利尿薬、イトラコナゾール)
いやこんなの面倒くさいからゴロが良いという方はこちらをどうぞ。
低価格のマック→低(Ca・Mg・K)
ニューマック→ニューキノロン・マクロライド
133円→Ⅰa・Ⅲ群抗不整脈薬、三環系抗うつ薬
好き→schizophrenia(統合失調症)の薬=抗精神病薬
覚えていて欲しいこと
上記の通り、原因の薬剤は多領域にわたるため、薬剤性のQT延長は現場に出ると比較的遭遇しやすいです。
特に循環器領域では抗血小板薬の副作用対策にPPIを併用します。さらに降圧薬としてサイアザイド系利尿薬も入っていることも多いです。そこに感染症が起こり抗菌薬が追加されたら…?
現実に起こりやすい組み合わせですので、これを読んでくださった医学生や薬学生の方は覚えていていただけると幸いです。
医師国家試験問題で理解度をチェック!
94E15
75歳の男性.今朝から動悸を感じ,気が遠くなるようなめまいも出現したため来院した.20年前から高血圧があり,5年前から1~2時間持続する動悸を感じ,かかりつけの医師から抗不整脈薬の投与を受けていた.4日前から下痢が続いていた.来院時の心電図を次に示す.
直ちに確認すべきことはどれか.2つ選べa 服薬内容
b 家族歴
c 生活歴
d 動脈血ガス
e 血清電解質
110E34
QT延長に注意すべき抗菌薬はどれか。2つ選べ。a セフェム系b ペニシリン系c マクロライド系d ニューキノロン系e アミノグリコシド系
111I69
76歳の男性。繰り返す数秒間の意識消失のため救急車で搬入された。昨日の夕方に一過性の意識消失を自覚した。今朝から30分に1回程度の間隔で数秒間の意識消失を繰り返すため、家族が救急車を要請した。動悸を自覚するのとほぼ同時に意識消失するという。10年前から高血圧症、うつ病、胃潰瘍および便秘症のためサイアサイド系降圧利尿薬、カルシウム拮抗薬、四環系抗うつ薬、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、甘草を含む漢方薬および刺激性の下剤を内服している。モニター心電図で意識消失に一致する10秒程度の多形性心室頻拍を認め、このときは脈拍を触知しない。12誘導心電図を別に示す。
治療方針の決定のため、まず行うべき検査はどれか。
a 脳波b 頭部CTc 起立試験d 血糖測定e 血清カリウム測定
112F69
中年の女性。意識障害のため救急車で搬入された。
現病歴:ホテルの部屋で倒れているのを従業員が発見し、呼びかけに反応が乏しいため救急車を要請した。救急隊到着時にはけいれんしていたが、搬送開始直後に治まった。
既往歴:不明
生活歴:不明
家族歴:不明
現 症:意識レベルはJCS II-20。身長160cm、体重50kg。体温38.6℃。心拍数106/分、整。血圧94/50mmHg。呼吸数24/分。SpO2 100%(マスク5L/分酸素投与下)。皮虜はやや乾燥。瞳孔径は両側6.5mmで、対光反射は両側やや緩慢。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。口腔内は乾燥している。頸静脈の怒張を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。腸雑音は減弱している。四肢に麻痺はなく、腱反射は正常。検査所見:尿所見:蛋白(―)、糖(―)、ケトン体(―)、潜血(―)、沈渣に白血球を認めない。血液所見:赤血球450万、Hb 13.9g/dL、Ht 42%、白血球11,200、血小板16万、PT-INR 1.2(基準0.9〜1.1)。血液生化学所見:総蛋白7.0 g/dL、アルブミン3.9g/dL、総ビリルビン0.9mg/dL、直接ビリルビン0.2mg/dL、AST 46U/L、ALT 32U/L、CK 1,500U/L(基準30〜140)、尿素窒素18mg/dL、クレアチニン 0.8mg/dL、血糖98mg/dL、Na 141mEq/L、K 4.5mEq/L、Cl 102mEq/L。動脈血ガス分析(マスク5L/分酸素投与下):pH 7.35、PaCO2 28Torr、PaO2 100Torr、HCO3– 15mEq/L。心電図は洞調律で不整はないが、QRS幅が広がりQT間隔の延長を認める。ST-T変化を認めない。胸部エックス線写真で心胸郭比と肺野とに異常を認めない。頭部CTに異常を認めない。
ホテルの部屋のごみ箱に錠剤の空包が多数捨ててあったとの情報が得られた。
最も可能性が高い薬物はどれか。
a 麻薬b コリン作動薬c 三環系抗うつ薬d 交感神経作動薬e ベンゾジアゼピン系睡眠薬
薬剤師国家試験 106回 問289
72歳女性。読書中に胸部の違和感が出現し、その直後に目の前が真っ暗になり5秒間程度意識を失った。翌日も、30分に1回くらいの間隔で同様の数秒間の失神発作を繰り返したため、病院に救急搬送された。
搬送時の所見:血圧 136/78mmHg、心拍数 70拍/分、赤血球数 458×104/μL、Hb 12.9g/dL、Ht 45%、白血球数 7,600/μL、血小板数 16×104/μL、AST 32IU/L、ALT 26IU/L、CK(クレアチンキナーゼ) 112IU/L、血清クレアチニン値 0.6mg/dL、血糖値 98mg/dL、Na 135mEq/L、K 4.1mEq/L
意識消失時に心電図モニターに異常波形(下図)を認め、その際脈拍を触知しなかった。非発作時は意識清明で、心音や呼吸音に異常はない。
家族から、最近、処方薬が変更になったとの情報を得た。そのため、変更された薬物により意識消失が引き起こされた可能性があると考えた。現在、患者は以下の薬剤を服用している。
最も疑わしいのはどれか。1つ選べ。
- シベンゾリン
- カルベジロール
- ワルファリン
- フロセミド
- ランソプラゾール
以上です。
少しでも参考になれば幸いです。
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