ロキソニンと授乳、安全性について

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医療従事者に必須の知識
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授乳中の方が歯痛や頭痛、風邪などでの発熱など解熱鎮痛薬であるロキソニンを服用していいのか、迷うことがありますよね?

現代はネットで検索すれば薬の添付文書が見れる時代です。実際に検索すると、下の画像のように

         f:id:yashiki5296:20160206001503p:plain

ロキソニン錠60mg 添付文書より引用

「授乳中の婦人に投与することを避け、やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること」との記載が出てきます。

これを見た方は「この薬飲んで大丈夫?」と不安になってしまうことと思います。本当にそうなのか薬学的に検討してみました。

結論から言うと、問題ありません。

 

この先は医療関係者向けにその科学的根拠を記載していきます。

 

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 物理化学的性質から

薬剤は、全体の流れとしては母体血漿⇒母乳を産生する腺房細胞⇒母乳の順に移行していきます。

腺房細胞同士は密着結合しており、受動拡散に従って細胞を介して移行します。

受動拡散のため、薬剤の移行しやすさに関わる因子は以下の通りです。

分子量

分子量は304.31。

分子量200以下の薬剤が細胞膜の細孔を通過しやすいため、移行しづらい性質を持ちます。

脂溶性か水溶性(1-オクタノール/水分配係数)

脂溶性か水溶性かを表す指標である1-オクタノール/水分配係数は0.82。

1以下のため水溶性。細胞膜を通過しやすいのは脂溶性であるため、これも移行しづらいです。

塩基性か酸性か(pKa)

pKaは分子型とイオン型の割合が等しくなる時のpHを指します。

ロキソニンは4.2の酸性薬物であり、pH7.4の血漿中ではpKa<pHとなっており、分子型の割合が少ないです。

分子型の方が細胞膜の通過性がいいため、移行しづらい性質を持ちます。

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また、母乳のpHは6.8と弱酸性であるため弱塩基性の薬物が母乳へ溶けやすい、この観点からも移行しづらいといえます。

半減期

薬剤は半減期が長いほど体内へ蓄積しやすく、その分母乳への移行率も高くなります。

ロキソニンの成分であるロキソプロフェンは体内で活性化して作用を発揮するプロドラッグであり、活性代謝物(trans-OH体)が存在します。

ロキソプロフェンおよびtrans-OH体の半減期は1.22時間で、活性代謝物ともに半減期は短く、6時間ほどで体内から消失し、蓄積性もないため、移行しにくいと考えられます。

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 1日3回で投与間隔が6時間だとすると、投与間隔τ/半減期1.22時間=4.9で蓄積率1未満であり、定常状態には達しない(ロキソプロフェンが1-コンパートメントモデルと仮定した)。

 

タンパク結合率

タンパク結合率はロキソプロフェンが97%、trans-OH体が92.8%。

血中のタンパク質と結合していない薬物が組織へ移行しやすいので、ロキソニンは高いタンパク結合率を持つため、腺房細胞へも移行しにくい可能性が高いです。

以上、ロキソプロフェンおよびその活性代謝物の物理化学的特性から検討しましたが、判断基準としては実際の血中濃度も考慮してみました。

 

薬物動態的性質から

相対的乳児摂取量(RID)

インタビューフォームより、60mg投与後1~6時間の乳汁中ロキソプロフェンおよびtrans-OH体濃度は測定限界(0,02μg/mL)以下との記載があるため、ほとんど移行していないことがわかります。

また、母体投与量のうち、何%が乳児へ移行したかを表す指標として、相対的乳児摂取量(RID)というものがあります。

RID=母乳中濃度×哺乳量(mg/kg/day)/母親の投与量(mg/kg/day)×100

通常は1回1錠で服用すると思いますが、急性上気道炎に関しては120mgを1日2回服用するのでその用量でも検討してみます。

①まずは式の分子から計算していきます。

上述の通りインタビューフォームから母乳中濃度は検出限界以下ですが、仮に検出限界値の0.02μg/mLあったと仮定すると、60mgの投与量でその濃度なので、1日の総投与量の240mgでは0.08μg/mLあると推定されます。

乳児の平均哺乳量は150mL/kg/dayなので、乳児の理論的な摂取量は0.08μg/mL×150mL/kg/day=12μg/kg/day=0.012mg/kg/dayとなります。

 

②次に分母を計算します。母親世代の平均体重は50kgなので、母親の投与量は240mg/50kg/day=4.8mg/kg/day。以上①、②をRIDの式へ代入すると

RID=0.012/4.8×100=0.25%

となります。RID<10%未満であれば安全と言われています。1%未満であればまず問題になりません。

今回は母乳中濃度を高めにあると仮定しましたが安全に投与できるということになりました。実際には0.02μg/mL以下なので、よりRIDは低くなると予測され、より安全に使えると思われます。

まとめ

薬剤の物理化学的性質からしても、体内での動きからしても母乳に移行しにくい薬剤であることが考えられました。

裏付けとしては母乳とくすりハンドブック2010 大分県「母乳と薬剤」研究会で「ロキソニン」と検索していただくと確認できると思います。

 

参考文献

・ロキソニン錠 添付文書・インタビューフォーム

・「妊娠・授乳と薬」愛知県薬剤師会発行

(http://www.achmc.pref.aichi.jp/sector/hoken/information/pdf/drugtaioutebikikaitei%20.pdf))

・水野克己、水野紀子「よくわかる母乳育児」へるす出

・「母乳とくすりハンドブック」大分県母乳と薬剤研究会 編集

(http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/40208/1/YANAGISAWA-Teruyuki-01-09-0015.pdf))

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