メトホルミン(メトグルコ®)の作用機序・チェックすべき検査項目

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作用機序

日本でもよく使われていて、米国糖尿病学会(ADA)も第一選択薬としているメトホルミンについて調べてみました。生化学や有機化学とも大いに関連してきます。

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構造と名前の由来

ビグアナイドという言葉は、『bi+guanidine』から来ています。biは2つのという意味を表し、2分子のグアニジンが結合した構造をしているために上記のような命名になっています。

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左がグアニジンの構造です。右がメトホルミンの構造です。

アミノ基(ーNH2)が多いことがわかります。一方で炭素と結合した水素(=炭化水素)が少ないこともわかります。

これらのことから水溶性が高いことが読み取れます。

メトホルミンの作用機序

①腸管からの糖吸収を抑制

②各組織での糖利用を促進(インスリン抵抗性改善)

③肝臓からの糖新生を抑制

①については詳細な機序は未だによくわかっていません。

②および③について解説します。

基本的にAMPK(アデノシン一リン酸活性化キナーゼ)を活性化することがキーとなっています。

②主に骨格筋、脂肪細胞において、AMPKの活性化を通じて糖輸送体GLUT4を細胞膜上に移行させ、糖の取り込みを促進して血糖を低下させる。

これら①と②により食後高血糖を抑制します。

≪脂肪酸合成の阻害≫

アセチルCoA→マロニルCoA→→→脂肪酸

AMPK活性化を介して、脂肪酸合成に必要なアセチルCoAカルボキシラーゼを阻害することで脂肪酸のβ酸化を促進し遊離脂肪酸を低下させインスリン抵抗性改善作用を持ちます。

 

≪コレステロール合成≫

アセチルCoA→アセトアセチルCoA→HMG-CoA→メバロン酸→→→コレステロール

またスタチン系のようにコレステロール合成に必要なHMG-CoA還元酵素を阻害しLDL-Cを低下させる作用も併せ持ちます(重篤な副作用に横紋筋融解症の記載もあります)。

 

≪糖新生≫

オキサロ酢酸→ホスホエノールピルビン酸→→→グルコース-6-リン酸→グルコース

③AMPK活性化を介して、

ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(オキサロ酢酸からホスホエノールピルビン酸の産生に関与している酵素)と、

グルコース-6-ホスファターゼ(肝臓に特異的に活性が高い酵素で、グルコース-6-リン酸からリン酸を外す酵素)を阻害するため糖新生がブロックされます。これにより空腹時高血糖も改善します。

以上のようにSU剤とは異なり、インスリン分泌を促進するわけではないため、単剤では低血糖を起こしにくい薬剤です。

 

用量依存性

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メトグルコ インタビューフォームより引用

このデータのように、用量を増やしていくにつれてHbA1c低下作用は上昇していきます。日本でも上限2250mgまで投与が可能となっています。

 

臨床でフォローしたいポイント

・水溶性で腎排泄型

構造式を見ても炭素含有率が低く、電気陰性度の高い窒素原子が多く含まれ極性が高く、そのため水溶性と考えられます。

確認のためインタビューフォームを参照すると、「水に溶けやすく、酢酸にやや溶けにくく、エタノールに溶けにくい」との記載に加え、尿中未変化体排泄率は約86%とあり、腎排泄型であることがわかります。

用量依存的に効果が出るとはいえ、中等度~高度腎機能低下例では排泄遅延のため乳酸アシドーシスのリスクが高まります。

『メトホルミンの適正使用に関するRecommendation』によると、eGFR:30mL/min/1.73m2未満では禁忌、30~40では慎重投与となっています。

また、ヨード造影剤や脱水によって排泄が遅延するのも危険因子であるため検査当日+前後2日間は中止、シックデイでは脱水予防の指導が重要になりそうです。

配合剤のエクメットなどは忘れやすいので注意。

・心肺機能低下例や肝機能障害例

心不全や心筋梗塞、低酸素血症となるような病態では嫌気的解糖が亢進し、乳酸産生が増加しやすいため禁忌。

また乳酸は主に肝臓において乳酸脱水素酵素(LDH)によってピルビン酸へ代謝されるため、重度の肝機能障害例では禁忌となります。

頻度は10万人あたり3人と稀ですが、消化器症状があれば以下の検査項目はチェックしていきたいと思います。

アニオンギャップ [Na-(Cl+ HCO3-) :正常値12±2mEq/])>16

血液pH<7.35

血中乳酸値>5mmol/L (45mg/dL) 

 

補足:アニオンギャップとは

血中の陽イオンと陰イオンの差(ギャップ)を計算するものです。

細胞外にはNa+、Cl-、HCO3-、有機酸(乳酸など)が存在しています。乳酸は酸なのでH+が電離して負に荷電しています。

乳酸は肝臓で糖新生の経路で処理されますが、処理能を上回った場合にはアニオンギャップが大きくなり、pHも低下します。

まとめ

SGLT2阻害薬が出るまでは大血管障害を抑制するエビデンスがあった経口糖尿病薬でした(Arch Intern Med.2010 Nov 22;170(21):1892-9)。

今でも最前線で用いられている薬剤で、使い方を守れば効果の高い薬剤です。

 

参考文献

・メトグルコインタビューフォーム

・メトホルミンの適正使用に関するRecommendation(http://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/40208/1/YANAGISAWA-Teruyuki-01-09-0015.pdf))

・岩岡秀明,栗林伸一,『糖尿病診療ハンドブックver3』中外医学社,2017 

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