【名探偵コナン】アポトキシンAPTX4869の作用機序

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作用機序
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医学生であり薬剤師でもある筆者が、名探偵コナンに出てくる、APTX4869の作用機序を考察してみました!フィクションをガチに考察してます。

分子生物学などの復習にもなりますので読んでみてください。

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アポトキシンAPTX4869の作用機序

原作によると、アポトーシスを誘導するとともに、テロメラーゼ活性によって細胞の増殖能力を高めるのが作用機序となっています。

名前の由来:アポトーシス+トキシン(毒)

アポトーシスとテロメラーゼ活性、それぞれについて考えていきます。

アポトーシスとは

生理的に不要になった細胞や、病理的な原因によって障害された細胞を除去する仕組みです。

オタマジャクシがカエルになる際に不要になる尾の除去や、ウイルスや病原体に感染した細胞の除去、がん細胞の除去、自己の細胞に反応する免疫細胞の除去などに関わり、形態形成や生体防御に重要な役割をもちます。

アポトーシスのおおまかな流れ

細胞の縮小⇒核クロマチンの凝縮⇒DNA断片化⇒細胞断片化(アポトーシス小体)⇒マクロファージによって貪食

・細胞膜は破裂せず細胞の内容物が流出しないため炎症は起こりません
短時間で起こります(2~3時間)

分子レベルの流れ

内因性経路と外因性経路があります。いずれもざっくりといきましょう。

内因性経路
抗がん剤治療や放射線治療、増殖因子がなくなる
⇒ミトコンドリアからシトクロムCが流出
⇒カスパーゼ9の活性化
⇒カスパーゼ3の活性化
⇒DNA分解酵素の活性化
⇒DNA断片化
・外因性経路
TNF-αやFasリガンドによる刺激
⇒それぞれの受容体を介してカスパーゼ8の活性化
⇒カスパーゼ3の活性化
⇒DNA分解酵素の活性化
⇒DNA断片化

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Exp Oncol. 2012 Oct;34(3):200-11.より引用

 

アポトーシスとAPTX4869

子供と大人の体の大きさの違いは、細胞数によるものだそうです。

少し前ですが、成人の細胞数が60兆個ではなく、37兆2000億個と報告されました(Ann Hum Biol. 2013 Nov-Dec;40(6):463-71)。

新一は成人の体格とほぼ同じと仮定して、37兆2000億個の細胞があったとします。

一方で、コナン君は小学1年生です。厚生労働省のデータから、小学1年生(7歳)の平均体重はおよそ23kg。単純に体重で比例計算すると、14兆2600億個となります。

アポトーシスを誘導することで、細胞数を減らし、小児の体格に戻ることはできそうです。

しかし、アポトーシスでは炎症は起こらないため、原作で描かれている発熱が説明できません。しかもアポトーシスにはエネルギーが必要なため、むしろ吸熱反応で体温が下がるような気もします。約23兆個もの細胞を除去するためにはよほどの熱が奪われることでしょう。

…もしかするとAPTX4869を飲まされた人たちは、熱が奪われることによって生命活動が維持できなくなり、死亡するのでしょうか。
死なずに済んだコナン君や灰原さんはAPTX4869の代謝に関わる酵素に変異でもあるのでしょうか?

大量の細胞をアポトーシスさせたら、それらの死んだ細胞をマクロファージなどの貪食細胞が処理しなければなりません。

また、カリウムも処理出来なければ高カリウム血症で心室細動を起こして死んでしまう気がします。大量のDNAも放出されるため尿酸も上がりはずですが、原作では高尿酸血症を発症していません。

テロメアとテロメラーゼ

テロメア:染色体の末端が分解されたり、傷害されるのを防ぐ繰り返しの配列(TTAGGG)


DNAを複製する時には、DNAポリメラーゼを使いますが、DNAポリメラーゼは
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5’→3’方向にしか合成できず、
しかも合成開始にはRNAプライマーが必要です。複製の進行方向に対して5’→3’方向になっている、図の上側の鎖(リーディング鎖を鋳型にした新生鎖)は合成に問題ありません。

 

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しかし下側の鎖(ラギング鎖を鋳型にした新生鎖)は進行方向に対して3’→5’方向と逆方向に進ませるため、複製を少し進むごとにRNAプライマーを使わなければなりません。

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最終的に出来上がったDNAにRNAプライマーが残っていてはDNAにならないので除去します。このときラギング鎖は断片となったDNAをDNAリガーゼで結合させます。しかしいずれの鎖も5’末端はRNAプライマーが削除されると、もうポリメラーゼは働けないでその分だけ短くなります。

複製するごとにテロメアが短くなっていき、ある一定の長さになると、染色体を保護する能力が落ち、変異が起こりやすくなるため、細胞は50回ほど複製して細胞分裂すると、それ以上増殖しないようになります(ヘイフリック限界)

しかし受精卵が赤ん坊になるまでにたったそれだけで分裂が停止してしまうと困るので、生殖細胞や幹細胞はテロメアを長くするテロメラーゼという酵素活性が高い状態になっています。他にも、がん細胞もテロメラーゼ活性が高く、増殖能力が高く保持されています。

 

テロメラーゼ活性とAPTX4869  iPS細胞化させている?

APTX4869はテロメラーゼ活性があるとのことですが、テロメラーゼの伸長反応を促進するのでしょうか。

確かに、テロメラーゼを活性化すればテロメアが伸長するため細胞分裂回数の制限は外れます。

ちなみに、テロメアが短縮して細胞が分裂できなくなることを細胞老化といいますが、個体の老化(白髪やしわが増えたりなどのエイジング)とは異なります。

上記のアポトーシスで細胞数を減らして子供の体格には戻れますが、アポトーシスされなかった細胞は17歳のままです。肌とか年齢が出やすい部分は小学1年生との差が顕著になりそう。

山中教授の人工多能性幹細胞(iPS細胞)のように、体細胞を初期化(リプログラミング)して幹細胞化するのであれば、漫画の通りテロメラーゼ活性は上がります。若返りは可能かもしれないけど、それだと行き過ぎて小学1年生で止まらずに赤ん坊まで戻りそうです。

製剤学的・分子生物学的に考えられること

今度は薬剤師の観点で、漫画の描写から考えられることを書いていきます。

ジンから口にAPTX4869を入れられて1時間も経たないうちに作用が発現していますよね。

一般的に表面積が広く、膜透過性の良い小腸から薬剤が吸収されますが、口から小腸に到達するまでに30分(空腹時)〜2時間(食後)はかかってしまうはずです。

あれだけ早く薬効が出ていたということは、舌下投与で口腔粘膜から吸収されたのではないかと思われます。これなら1〜2分で効果が発現する上に、全身循環に乗って全身の細胞に作用します。

仮に舌下投与だとすると、吸収過程は受動拡散に依存するからAPTX4869は脂溶性薬物と思われます。舌下から全身循環に乗るために初回通過効果も回避できます。

脂溶性薬物ならば細胞膜を通過するため、アポトーシスは内因性経路かと思われます。そしてアポトーシスを誘導しない細胞には核内移行して転写因子として働いたりするとiPS細胞のように若返りが説明できるかもしれません。

以上です。最後まで読んでいただきありがとうございました。

コメント

  1. 生物選択ちゃん より:

    脂溶性物質の舌下投与だとすると血液脳関門を透過してしまうため、記憶や知性がそのままなことが説明できないと思います。APTXによる内因性アポトーシスがテロメアーゼ活性をトリガーとする一連のカスケード反応で、中枢神経細胞にはテロメア活性がないため影響を受けなかったと考えることもできそうですが…

    • pharmadoctor より:

      コメントありがとうございます。

      健常者では生殖細胞や幹細胞のみにテロメラーゼ活性があるので、「テロメラーゼ活性が無いため影響を受けない」と考えてしまうと、ほとんどの細胞が影響を受けないことになってしまいませんか?

      また、脂溶性だから血液脳関門(BBB)を通過するというのはいささか乱暴な気がします。通過しやすい条件として、分子量が小さいことや栄養(グルコースやアミノ酸)物質に類似した構造をとっていることでトランスポーターに認識されやすいなどの要因も大きいです。

      このあたりはライソゾーム病における酵素補充療法や、PCNSLにおいてR-CHOP療法を行わないことを参照していただければわかりやすいかと思います。

      おそらくAPTXは分子量が大きいためBBBを通過しないのでは?と考えております。

      ディスカッションできて面白かったです。
      本当にコメントありがとうございます。

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