免疫抑制剤や、TNF-α抗体製剤やCD20抗体製剤など免疫を対象とした薬剤は、免疫力を強力に抑制し、関節リウマチや悪性リンパ腫を快方へ向かわせます。
ですが、根治しない感染症においてはウイルスや細菌の増殖を押さえ込んでくれている免疫を抑制してしまい、再燃させてしまうリスクがあります。
そのため薬剤師は抗TNF-α抗体製剤や抗CD20抗体製剤が処方された際にカルテをチェックしてそれらの感染症の既往がないかを確認します。
国家試験問題にチャレンジ
医師国家試験 112A50
55歳の女性。黄疸を主訴に自宅近くの医療機関から紹介されて受診した。1年前に血便と腹痛が出現し、大腸内視鏡検査によって潰瘍性大腸炎と診断された。まず副腎皮質ステロイドを投与されたが、効果不十分のため6か月前から抗TNF-α抗体製剤の投与が開始された。1か月前の前医受診時には血便と腹痛はなく、肝機能検査は正常で黄疸もなかったが、1週間前に黄疸が出現した。飲酒は機会飲酒。この6か月間で抗TNF-α抗体製剤以外、新たに開始された薬剤はない。母親と兄がB型肝炎ウイルスのキャリアである。意識は清明。身長152cm、体重45kg。体温36.3℃。脈拍64/分、整。血圧116/60mmHg。眼瞼結膜に貧血を認めない。眼球結膜に軽度の黄染を認める。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。圧痛を認めない。下肢に浮腫を認めない。血液所見:赤血球325万、Hb 11.6g/dL、Ht 31%、白血球4,300、血小板17万、PT-INR 1.2(基準0.9〜1.1)。血液生化学所見:総蛋白6.3g/dL、アルブミン3.8g/dL、ビリルビン4.7mg/dL、直接ビリルビン3.5mg/dL、AST 1,236U/L、ALT 1,202U/L、ALP 352U/L(基準115〜359)、γ-GTP 75U/L(基準8〜50)。1年前の大腸内視鏡検査施行時にはHBs抗原陰性、HCV抗体陰性であったという。
診断を確定するために最も重要な血液検査項目はどれか。
a IgM型HA抗体b HBs抗原c HCV抗体d IgA型HEV抗体e 抗核抗体
第102回薬剤師国家試験 問300より引用
62歳女性。3年前に悪性リンパ腫と診断され、R-CHOP療法が施行された。R-CHOP療法施行直前の検査で肝機能検査値に異常はなかった。R-CHOP療法4コースを終了後、定期的に通院していたが、あるときALT 742U/L、AST 1,354U/Lと上昇したため入院した。
エンテカビルの投与によりALT及びASTは低下した。本人に確認したところ、10年前の献血時にHBc抗体陽性を指摘されていたことが判明した。
本症例に関する記述のうち、正しいのはどれか。1つ選べ。
1 本症例の悪性リンパ腫は、Hodgkinリンパ腫である。
2 ALT及びASTの上昇は悪性リンパ腫の再発に起因する可能性が高い。
3 R-CHOP療法により、肝組織が直接障害され、ALT及びASTが上昇した。
4 R-CHOP療法開始後にHBVに再感染した可能性が高い。
5 R-CHOP療法によりHBVが再活性化した可能性が高い。
悪性リンパ腫とありますが、ホジキンなのか非ホジキンなのか記載がありません。医師国家試験では症状やリンパ節の生検画像から疾患を考えさせるのが一般的なのですが、処方薬から疾患を想起させるという薬剤師ならではの観点が問題になっているのが面白いです。
免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドラインより引用
105回薬剤師国家試験 問291
17 歳男性。身長 170 cm。断続的に続く腹痛と下痢を呈し、 3 ヶ月間で体 重が 60 kg から 54 kg へと減少した。最近は、38 °C前後の発熱を認めることがある。近医を受診し、内視鏡検査を行ったところ、回盲部と空腸から横行結腸にかけ て非連続的な潰瘍病変が観察された。そこで、プレドニゾロン(50 mg/日)とメトロニダゾール(750 mg/日)による治療が開始された。なお、この患者は B 型及 び C 型肝炎ウイルスには感染していない。
治療開始後も症状改善が見られないため、10 月中旬より入院してアダリムマブによる治療を開始することになり、患者の治療方針を医療チームで話し合うことに なった。薬剤師がチームに提案することとして適切なのはどれか。2つ選べ。
1 抗アダリムマブ抗体の有無を検査すること。
2 流行に備えて、インフルエンザワクチンを接種すること。
3 胸部レントゲン検査を行い、結核感染の有無を調べること。
4 レジパスビル/ソホスブビル配合錠を投与すること。
5 抗ミトコンドリア抗体の有無を検査すること。
薬剤師国家試験の臨床問題の有効活用
疾患名で検索していると薬剤師国家試験が引っかかることがあって、知識の確認のために解いてみていますが、非常によく作られています。近年の医師や薬剤師の国家試験は臨床現場の内容とよくマッチしていて復習・勉強になります。
以上となります。
最後まで読んでいただき有り難うございます。
少しでも参考になれば幸いです。
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