使わない知識はどんどん抜けていきますよね。私も薬剤師の知識が抜けないように日経メディカルオンラインの1日1問の薬剤師国家試験問題を解いています。
問題の選択肢を眺めていたらふと、いろんな知識とリンクするなぁと気付きました。
この問題です。
101回薬剤師国家試験 問151
次の筋細胞に存在する異なった標的分子に働き、収縮機能に対して相反する作用を示す薬物の組合せはどれか。2つ選べ。
- 血管平滑筋細胞におけるアセチルコリンとフェニレフリン
- 瞳孔括約筋細胞におけるアセチルコリンとネオスチグミン
- 気管支平滑筋細胞におけるアセチルコリンとイソプレナリン
- 骨格筋細胞におけるアセチルコリンとツボクラリン
- 骨格筋細胞におけるアセチルコリンとダントロレン
選択肢1→循環器
選択肢1はアセチルコリンが平滑筋を収縮させることポイントです。この知識は冠攣縮性狭心症(異型狭心症)やの病態の理解にも役立ちます。
冠攣縮性狭心症は夜間・早朝などの副交感神経が活発な時間帯に発作が起きやすい特徴があります。
副交感神経の担い手といえばアセチルコリンですが、アセチルコリンは血管平滑筋を収縮させる一方で血管内皮細胞にも作用して一酸化窒素(NO)を産生させて弛緩作用も発揮します。
このためアセチルコリン投与で血管が拡張するのですが、タバコなどで血管内皮細胞が障害されているとNOが産生できず血管平滑筋が収縮してしまいます(冠攣縮性狭心症)。
ゆえに治療に血管を弛緩させ拡張させるカルシウム拮抗薬や硝酸薬が有効となります。
選択肢2→眼科・神経・泌尿器
アセチルコリンは瞳孔括約筋を収縮させ、縮瞳します。ゆえにアトロピンなどの抗コリン薬では散瞳します。抗コリン薬は緑内障には禁忌でしたね。
一方でネオスチグミンなどの「◯◯チグミン」はアセチルコリンを分解するコリンエステラーゼ阻害薬です。アセチルコリン受容体抗体のためにアセチルコリンのシグナルが伝わりにくい重症筋無力症の治療薬です。また、リバスチグミンは認知症の治療薬として用いられています。
前立腺肥大症はその名の通り肥大した前立腺で尿の通り道が狭窄されている病態です。その状態では排尿筋(膀胱平滑筋)でポンプのように尿を押し出しています。アセチルコリンで平滑筋を収縮させているのに抗コリン薬(風邪薬などにも含まれている)を投与してしまうと尿が出ない尿閉という状態になってしまいます。
選択肢3→呼吸器・循環器
アセチルコリンは気管支平滑筋を収縮させます。一方イソプレナリン(イソプロテレノール)はβ刺激薬で気管支平滑筋を弛緩させます。
アセチルコリンは心拍数を低下させます。一方イソプレナリンは心拍数を上昇させます。なので徐脈性不整脈の治療に、イソプレナリンやアトロピンが有効なのです。
選択肢1・2・4・5→麻酔科・精神科
全身麻酔下では血圧が低下しやすく、昇圧のために選択的α1刺激薬のフェニレフリンを使います。
また全身麻酔では筋弛緩薬も用います。アセチルコリンは骨格筋のニコチンNm受容体に作用して収縮するのでした。ツボクラリンは南アメリカの先住民が矢毒として用いたクラーレの成分です。アセチルコリンと同じ受容体に作用し、椅子取りゲームのように競合してアセチルコリンの作用を阻害します。
ツボクラリンを臨床で使えるように改良して作られた「◯◯クロニウム」の競合型筋弛緩薬が効きすぎてしまった時の拮抗薬として、ネオスチグミンが用いられていました(今はスガマデクスが主流)。
また、ダントロレンは筋小胞体からのカルシウム放出を抑制して筋弛緩作用を発揮します。遺伝素因に加えてスキサメトニウムなどの筋弛緩薬やハロタンなどの吸入麻酔薬で起こる悪性高熱の治療薬でもあります。精神科の悪性症候群にも有効です。
以上となります。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
少しでも参考になれば幸いです。
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