メトトレキサート投与で注意すべき項目は?

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作用機序

いろんな診療科で用いられる薬剤ですし、医師国家試験でも薬剤師国家試験でも問われやすい薬剤ですので、いろんな角度から眺めてみたいと思います。

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確認すべき項目

まず結論からです。

・連日投与ダメ
・妊婦禁忌
・胸水や腹水禁忌
・肝腎障害ダメ

有機化学

メトトレキサートの構造

葉酸の構造

メソトレキセート®錠2.5mgより引用

・構造式から腎排泄型とわかる

左がメトトレキサートの構造、右が葉酸の構造です。これらの構造はとても似ていますよね。

葉酸は別名ビタミンB9と呼ばれます。ビタミンB群は水溶性ですので、それに構造が類似しているメトトレキサートも水溶性と推測できます。

代表的な腎排泄型の薬剤です。
主な肝代謝型薬物と腎排泄型薬物の一覧

 

・名称から酸性とわかる

メトトレキサート Methotrexateは化学の英語では、語尾が「〜ate」、つまり酸を表します。構造の右端に付いているグルタミン酸のカルボキシ基からも酸性薬物だとわかります。

腎排泄型なので尿路に捨てられていくのですが、酸性薬物のため酸性尿だと析出してしまう恐れがあります。そのため炭酸水素ナトリウムで尿をアルカリにして溶けやすい状態を保ちます。アルカリ尿の副作用があるアセタゾラミドを併用することもあります。

アセタゾラミドの副作用まで一気におさえられますので覚えてしまいましょう。

胸水や腹水のある患者には禁忌ですが、その理由は、胸水や腹水はpH 7.6とアルカリ寄りでありメトトレキサートが貯留しやすいためです。

薬理学

http://medical.radionikkei.jp/maruho_hifuka/maruho_hifuka_pdf/maruho_hifuka-150326.pdf より引用

構造が似ているためにメトトレキサートはジヒドロ葉酸還元酵素を阻害します。

それにより葉酸の本来の役割である、DNAにメチル基を付加する作用を阻害し、DNA合成を阻害します。これらの作用は細胞増殖が盛んなところ、つまりがん細胞や滑膜細胞、リンパ球に発現しやすいため、免疫抑制作用や抗腫瘍作用を発揮します。

体内に取り込まれたメトトレキサートは末端のグルタミン酸にさらにグルタミン酸が付加されます。ポリグルタミン酸の付いたメトトレキサートは体内に長く留まる性質があります。そのため1週間に1〜2日しか服用しなくとも作用が持続します。

メトレート®錠2mgより引用

関節リウマチにおける服用方法は、1週間あたりの内服量は、6mg~8mgで、1〜3回に分けて服用します。

上の表の通り、1回投与なら1日目の朝だけ、2〜3回投与なら12時間ごとに1〜2日間服用し、残りの5日間を休薬します。

連日投与する薬剤ではないことをおさえておきましょう。これは実際によくある事例ですので、薬剤師国家試験でも何度も出題されています。

副作用

用量依存のものと非依存のものがあります。

用量依存的

・口内炎、肝障害、骨髄抑制

口内炎、肝障害、消化器症状の予防 ・ 治療や、1週間の投与量が8mgを超える場合、腎機能低下例では葉酸併用が推奨されます。

ホリナートカルシウムなどの葉酸製剤は5mg/週を以下をメトトレキサートの最終投与から24〜48時間後に投与することとされています。

用量非依存的

・皮疹、間質性肺炎、HBV劇症肝炎、リンパ増殖性疾患(悪性リンパ腫)

cf.そのほかに間質性肺炎の原因となる薬剤は?
間質性肺炎(薬剤性肺障害)リスクの高い薬剤のゴロ

免疫抑制ではB型肝炎の再燃に注意
免疫抑制療法の前にチェックすべき感染症は?

 

腎排泄型ですので、腎機能eGFR<30未満では禁忌となります。

これらの副作用をチェックするため、血液検査、胸部X線、肝機能、腎機能を定期的に行う必要があります。

用いられる疾患

関節リウマチ、乾癬、乾癬性関節炎、

侵入奇胎、絨毛癌、異所性妊娠(保険適応外)

中枢原発性悪性リンパ腫

上記の通り、膠原病や産婦人科、脳神経外科と、様々な診療科で用いられます。

妊娠と授乳

・妊婦禁忌

異所性妊娠に対して妊娠終了のために用いられるくらいなので妊婦には禁です。上述の通り、体内に留まりやすい性質を持っているので内服中止後3ヶ月は妊娠を控えるよう指導が必要です。

母乳中へも移行が確認されているため授乳婦にも禁忌です。

国家試験問題で理解度をチェック!!

第103回薬剤師国家試験 問70

重篤な腎機能障害のある患者に禁忌となっている薬物はどれか。1つ選べ。

1 アレンドロン酸
2 チクロピジン
3 メトトレキサート
4 クエチアピン
5 シルニジピン

正解・解説はこちら
正解は3です。

他は骨に集積しやすいビスホスホネート、肝障害が出やすいチクロピジン、中枢神経に作用するクエチアピン、脂溶性の高いカルシウム拮抗薬と脂溶性が高い薬剤から除外していってもいいですね。


医師国家試験 112A40

67歳の男性。右上下肢の脱力を主訴に来院した。2週間前から右手で車のドアを開けることができない、歩行時に右足を引きずるなどの症状が徐々に進行したため受診した。意識レベルはJCS I-3。体温36.2℃。脈拍72/分、整。血圧142/80mmHg。呼吸数16/分。右片麻痺を認める。頭部造影MRI(A)及び定位的脳生検術によって左前頭葉病変から採取した組織のH-E染色標本(B)と抗CD20抗体による免疫組織染色標本(C)とを別に示す。FDG-PETでは脳以外に異常集積を認めない。

治療として適切なのはどれか。

a 抗菌薬投与
b 開頭腫瘍摘出術
c アシクロビル投与
d 定位的放射線治療
e 大量メトトレキサート療法

正解・解説はこちら
正解はeです。

右の片麻痺と意識レベルの低下。2週間という早い経過。

MRIでは造影された腫瘍、病理ではN/C比が高い細胞→リンパ球がびまん性に集簇している様子、抗CD20抗体の免疫染色では茶色く染まっているCD20陽性細胞があることが読み取れます。

これらのことから、中枢原発性の悪性リンパ腫を考えます。

a 細菌感染を疑うような発熱や項部硬直を認めないので×。
b 化学療法が効くので手術適応はありません。×。
c ヘルペス脳炎を疑う病歴や症状がないです。×。
d 定位ではなく全脳照射です。×。
e 正解です。…これは知らなかったので消去法じゃないと解けなかったです。

メトトレキサートは水溶性なので血液脳関門を通過しにくい薬剤です。大量に投与することでようやく通過します。どれくらい投与するのかというと、3g/m2以上ですので関節リウマチで用いる週に6mgと比べるといかに大量かがわかりますね。


第100回薬剤師国家試験 問331

院内の安全対策研修会で、下記の事例をもとに医療事故の対応を多職種で議論した。

事例
60歳女性。関節リウマチの診断で今回より初めてメトトレキサートカプセル2 mg 3カプセルが4週間分処方された。本来、週1回服用のところ、連日服用で28日分調剤された。服用開始18日目に倦怠感、食欲不振、歯肉出血が出現したため自己判断で服用を中止した。その3日後に外来受診し、検査の結果、口腔粘膜障害、胃腸障害、肝機能障害、骨髄抑制が認められたため緊急入院となった。
議論の中で、この患者への処置について薬剤師が意見を求められた。この薬剤の特徴から考えて効果的なのはどれか。2つ選べ。

 ホリナートカルシウムの投与
 ビタミンK製剤の投与
 薬用炭の投与
 炭酸水素ナトリウム注射薬の投与

正解・解説はこちら
正解は1と4です。

休薬せずに連日処方してしまった医師と、それをそのまま調剤してしまった薬剤師の事例ですね。

歯肉出血があることから血小板まで抑制されているのでしょうか。口内炎などの口腔粘膜障害、肝障害、骨髄抑制も出現しており、葉酸投与が必要と考えられます。

アルカリ尿にして排泄しやすくするために炭酸水素ナトリウムも必要ですね。


医師国家試験 114A11

挙児希望のある関節リウマチの女性に対して、妊娠前にあらかじめ中止すべき治療薬はどれか。

 タクロリムス
 インドメタシン
 エタネルセプト
 メトトレキサート
 サラゾスルファピリジン
正解・解説はこちら
正解はdです。

上記の通り、あらかじめ3ヶ月前に中止すべきなのはメトトレキサートです。


医師国家試験 111I58

25歳の女性。関節痛を主訴に来院した。1年前から両側の手関節と中手指節関節の腫脹と疼痛とを自覚するようになった。市販の消炎鎮痛薬と貼付剤とで様子をみていたが、3か月前から関節痛が増悪し、1か月前からは家事をすることが困難となったため受診した。挙児希望はない。両側手関節および両側示指と中指の中手指節関節に腫脹と圧痛とを認める。皮疹は認めない。血液所見:赤血球430万、Hb 12.5g/dL、Ht 38%、白血球8,300、血小板23万。血液生化学所見:AST 14U/L、ALT 18U/L、LD 204U/L(基準176〜353)、ALP 258U/L(基準115〜359)、尿素窒素10mg/dL、クレアチニン0.5mg/dL。免疫血清学所見:CRP 3.1mg/dL、リウマトイド因子〈RF〉72IU/mL(基準20未満)、抗CCP抗体151U/mL(基準4.5未満)。B型とC型の肝炎ウイルス検査および結核菌特異的全血インターフェロンγ遊離測定法〈IGRA〉は陰性である。胸部エックス線写真で異常を認めない。両手エックス線写真を別に示す。

この患者にまず行う治療はどれか。

金製剤筋注
抗菌薬経口投与
コルヒチン経口投与
メトトレキサート経口投与
シクロホスファミド経口投与
正解・解説はこちら
正解はdです。

私が処方箋をチェックする時の思考の流れが問題を解くのに役立って嬉しかったのを覚えています。

関節リウマチの診断が付いたら第一選択はメトトレキサート!で解けるのですが、注意すべき項目をおさえておきましょう。

メトトレキサート→妊婦禁忌、腎排泄、免疫低下

この順にチェックしていました。継続して服用されている方には、妊娠計画の有無などを聴取してました。

あとは処方箋に記載されたクレアチニンで腎機能をチェックし、結核やB型肝炎の検査をされたか確認ですね。

aの金製剤、薬理学的には効きますが、今はほとんど使われてないように思います。処方されているのを見たのは患者さん1人だけでした。処方されたのはかなりご年配の先生でした。

eのシクロホスファミドは炎症がかなり激しい時に使われます。悪性関節リウマチや急速進行性糸球体腎炎の時などです。この患者さんはこれらの疾患ではなさそうなので使いません。

 


医師国家試験 114D51

70歳の女性。発熱と頸部のしこりを主訴に来院した。8年前に関節リウマチと診断されプレドニゾロン、メトトレキサート及びNSAIDによる治療を継続している。1週前から誘因なく発熱が持続するため受診した。身長155cm、体重43kg。体温38.4℃。脈拍104/分、整。血圧120/80mmHg。呼吸数20/分。口蓋扁桃の腫大を認めない。両頸部と両腋窩に径2cmの圧痛を伴わないリンパ節を1個ずつ触知する。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。関節に腫脹と圧痛とを認めない。血液所見:赤血球315万、Hb 10.2g/dL、Ht 32%、白血球2,800(桿状核好中球36%、分葉核好中球44%、好酸球2%、好塩基球1%、単球8%、リンパ球9%)、血小板12万。血液生化学所見:総蛋白6.6g/dL、アルブミン3.3g/dL、AST 35U/L、ALT 23U/L、LD 780U/L(基準120〜245)。免疫血清学所見:CRP 2.2mg/dL、抗核抗体陰性、可溶性IL-2受容体952U/mL(基準157〜474)、結核菌特異的全血インターフェロンγ遊離測定法〈IGRA〉陰性。造影CTで縦隔・腸間膜に多発性のリンパ節腫大を認める。

まず行うべき対応はどれか。

a NSAIDの中止
b JAK阻害薬の追加
c 抗TNF-α抗体の追加
d プレドニゾロンの中止
e メトトレキサートの中止

正解・解説はこちら
正解はeです。

38.4℃の発熱、両頸部と両腋窩に径2cmの圧痛を伴わないリンパ節腫脹ということでメトトレキサート服用中の患者さんの頸部のリンパ節腫脹から考えると、免疫抑制からの結核再燃→結核性リンパ節炎と、メトトレキサートによる悪性リンパ腫を考えました。

今回は結核菌特異的全血インターフェロンγ遊離測定法〈IGRA〉陰性、造影CTで縦隔・腸間膜に多発性のリンパ節腫大を認めることから結核性リンパ節炎を除外します。

LD高値、可溶性IL-2受容体高値も悪性リンパ腫に矛盾しません。

メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患はメトトレキサートを中止すると、文献によりますが30%ほどは1ヶ月くらいで改善を認めるそうです。

ちなみにdのプレドニゾロン中止の選択肢は、元薬剤師的にはめちゃくちゃ怖い選択肢です。

ヒトの副腎からは1日およそ10〜20mgのコルチゾールが分泌されています(プレドニゾロンに換算すると2.5〜5mg)。

だいたい関節リウマチの患者さんにはプレドニゾロンは5mg投与されていることが多いので、副腎からのコルチゾール分泌は抑制されています。8年間も服用していたのを突然中止するのは副腎クリーゼのリスクが非常に高いです。

ついでに、メトトレキサートによる巨赤芽球性貧血もおさえておきましょう。葉酸が拮抗されることで起こります。MCVを計算すると100を超えており大球性貧血となっています。


以上となります。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

少しでも参考になれば幸いです。

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