自分の祖父母をみても薬。薬。薬。バイト先の薬局でも高齢者は薬。薬。薬。
ポリファーマシーについて調べたことをまとめてみました。
ポリファーマシーとは?
多剤併用のこと。
明確には定義されていませんが、およそ5〜6剤以上の薬剤の併用はポリファーマシーのリスクだと言われています。
高齢者は合併症が多いため多剤併用になりやすいという背景があります。高血圧や糖尿病、脂質異常症などがあればすぐに5〜6剤は超えるでしょうし。
問題なのは併用薬が多いことではない!
薬の作用は1つだけではなく副作用があるので、他科の疾患として扱われて薬剤が追加されてしまいやすいです。経験したことがあるのは以下です。
精神科でのクロルプロマジン→泌尿器科で排尿障害
内科で降圧薬→耳鼻咽喉科でふらつき
加齢による肝臓や腎臓といった薬物代謝・排泄に関与する臓器の機能の低下に加え、それぞれの薬剤間の相互作用のリスクも上がってくるため、併用薬が多くなるにつれて有害事象も増加してきます。
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015 より引用
高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015では、以下の視点から多剤併用を回避するべきとされています。
・予防薬のエビデンスは妥当か
・対症療法は有効か
・薬物療法以外の手段はないか
・薬剤に優先順位をつける
この他にも、実際に有害事象が発生した時、どの薬剤が原因なのか考えていく能力も必要だと思います。
医師国家試験でも出題されている!
医師国家試験 111D46より引用
83歳の女性。全身の衰弱のため、心配した介護施設の職員に伴われて来院した。 2か月前から介助がないと立ち上がれなくなった。1か月前からさらに活気がなくなり、1週間前から食事量も減少してきた。脳梗塞後遺症の左不全片麻痺、高血圧症、脂質異常症、骨粗鬆症および便秘のため、アスピリン、カルシウム拮抗薬、スタチン<HMG-CoA 還元酵素阻害薬>、活性型ビタミンD、酸化マグネシウム及びプロトンポンプ阻害薬を内服している。意識レベルは JCSⅠ-2。血圧 126/62 mmHg。尿所見:蛋白(ー)、潜血(ー)。血液所見:赤血球 302 万、Hb 9.7 g/dL、Ht 30 %、白血球 5,700、血小板14万。血液生化学所見:総蛋白 6.3 g/dL、アルブミン 3.3 g/dL、AST 11 U/L、ALT 16 U/L、CK 97 U/L(基準 30〜140)、尿素窒素 28 mg/dL、クレアチニン 2.8 mg/dL、LDL コレステロール 120 mg/dL、Na 134 mEq/L、 K 4.5 mEq/L、Cl 100 mEq/L、Ca 12.5 mg/dL、P 3.1 mg/dL、Mg 2.5 mg/dL(基準 1.8〜2.5)。
この患者の衰弱の原因として最も考えられる薬剤はどれか。
a アスピリン
b 活性型ビタミンD
c カルシウム拮抗薬
d 酸化マグネシウム
e スタチン<HMG-CoA還元酵素阻害薬>
臨床で本当によくみる処方ですよね。
医学生としての観点
おおまかな流れとしては、症状や検査値から疾患を把握し→薬の作用から原因を推測
体重が与えられていないのでクレアチニンクリアランスは算出できませんが、血清クレアチニンは2.8mg/dLと高値であり、かつHbは9.7g/dLの低値を呈しています。MCVは99と正球性。
加えてPも3.1mg/dLと低値で後述の高カルシウム血症があることから二次性副甲状腺機能亢進症が考えられます。
これらの情報から腎不全、そして腎性貧血を考えます。
さらにカルシウム値に目を向けると、12.5mg/dL。アルブミンが4を切っているので補正すると13.2mg/dLと高カルシウム血症になっていることがわかります。
補正Ca値(mg/dL) | 症状 |
---|---|
12未満 | 便秘など軽い症状 |
12〜14 | 口喝、多尿、倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐 |
14以上 | 意識障害、昏睡、脱力、異所性石灰化 |
意識レベルの低下(JCSⅠ-2)、活気や食事量の低下、衰弱は高カルシウム血症によるものと考えられますので、影響している薬剤を探すと、活性型ビタミンDが見つかります。
薬剤師としての観点
大まかな流れとしては、異常な検査値を見つける→薬の副作用をメインに見ていく
高カルシウム血症を見つけるまでは同じですが、まずは服用薬に着目します。
a アスピリン→消化管出血ないか→黒色便は?
b 活性型ビタミンD→高カルシウム血症ないか→倦怠感や食欲低下は?
c カルシウム拮抗薬→低血圧や下腿浮腫や歯肉肥厚は?
d 酸化マグネシウム→過度な下痢や高マグネシウム血症による不整脈は?
e スタチン<HMG-CoA還元酵素阻害薬>→横紋筋融解症は?→CK値は?
また、ネットでeGFRを計算してみると13.1ml/min./1.73m2。腎不全の数値ですので酸化マグネシウムは高マグネシウム血症になりやすいため別の下剤に変更するよう提案したいところです。
薬剤の妥当性評価だけではだめ!ケースバイケース
東大の秋下雅弘先生は、日常生活動作、認知機能、嗜好、家庭環境も考慮すべきと述べられています。
例をあげるならば、処方頻度の高い、ベンゾジアゼピン系の睡眠薬で考えてみましょう。
・日常生活動作の1つに挙げられる移動に関しては、ω2受容体にも作用するベンゾジアゼピン系睡眠薬ではふらつきが生じやすく転倒リスクが上昇します。
・認知機能に関しては、ベンゾジアゼピン系で低下することが報告されています。
・嗜好という面では、「これがないと眠れない」「持ってるだけで安心できる」という患者さんの希望もよく聞かれます。
・家庭環境の聴取も重要で、世話してくれる家族がいれば先ほどの転倒のリスクであるふらつきもすぐに発見してもらえるでしょうし、逆に不仲の家族がいればストレスで入眠困難で睡眠薬は必要でしょうし。
認知機能やふらつきのリスクを考慮するとベンゾジアゼピン系以外の睡眠薬に変更する手もありますが、ご本人の意向で変更は嫌だと言われることもあります…無難な物言いになってしまいますがケースバイケースですね。
以上となります。
最後まで読んでいただき有り難うございます。
少しでもお力になれれば幸いです。
コメント