肝臓の検査値とその意義

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医療従事者に必須の知識

疾患名や治療方針を患者さんから聞くことはできても、又聞きなので伝言ゲームのように正確性に欠けます。

だからこそ、患者さんの話をよく聞いて、持参してくださった検査値をしっかり見て、薬物治療上の問題がないか確認する必要性が高いと思っています。

ここには生理学と生化学が絡んできます。

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肝臓の役割(生理学)

肝臓の役割をわかっておくと、検査値を理解する上で役に立ちます。
矢印は、肝機能が低下した時に出現する事象。

毒や薬物の分解・代謝

アミノ酸の分解⇒芳香族アミノ酸の蓄積
アンモニア(オルニチン回路)⇒高アンモニア血症
薬物代謝(酸化・還元や抱合)⇒薬物血中濃度上昇
ホルモン分解⇒女性ホルモン濃度上昇
ビリルビンをグルクロン酸抱合して排泄
⇒黄疸
ビタミンDの活性化
⇒低カルシウム血症や骨軟化症

栄養素の貯蔵

過剰なグルコースをグリコーゲンとして貯蔵⇒低血糖
過剰な脂肪酸を中性脂肪として貯蔵⇒脂肪肝

食事ができない場合にはそれらを分解してエネルギーを取り出します。

物質の合成

凝固因子やアルブミンなどのタンパク質⇒出血傾向や浮腫
コレステロール⇒総コレステロール値低下
胆汁酸⇒脂溶性栄養素の吸収不良

※ちなみに、胆汁酸とコレカルシフェロールの原料はコレステロールです。「コレ」の意味は胆汁。

検査値(生化学・病態)

日常的に検査され、よく目にする項目のみ書いてます。

AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)

基準値:13~33U/L
局在:心筋・肝臓・骨格筋・赤血球・腎臓・ミトコンドリア⇒ほぼ全身に分布
肝臓含有量:約140(酵素活性U/g湿重量)
半減期:およそ12時間
役割
アスパラギン酸のアミノ基を、TCA回路の構成要素でもあるαーケトグルタル酸へ転移させる。その結果、アスパラギン酸はオキサロ酢酸へ、αーケトグルタル酸はグルタミン酸へ変化する。
逆反応も触媒する。

オルニチン回路との繋がり

バリン・ロイシン・イソロイソンなどの分岐鎖アミノ酸は、骨格筋でも分解されるが、アミノ酸からアミノ基を外すとアンモニアとなって細胞毒性を示してしまう。

その毒性を発揮させないためにアミノ基をαーケトグルタル酸に転移してグルタミン酸に変えている。グルタミン酸は肝臓に運ばれて、ミトコンドリアASTによってアミノ基をオキサロ酢酸に渡してアスパラギン酸へ変える。
そうすることでオルニチン回路に取り込まれてアンモニアを尿素へ変化させる。

 

ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)

基準値:8~42U/L
局在:肝臓>腎臓
肝特異的
肝臓含有量:約44(酵素活性U/g湿重量)
半減期:およそ50時間
役割
アラニンのアミノ基を、TCA回路の構成要素であるαーケトグルタル酸へ転移させる。その結果、アラニンはピルビン酸へ、αーケトグルタル酸はグルタミン酸へ変化する。

 

糖新生との関わり

糖新生とは、アミノ酸や乳酸などの材料からグルコースを作る過程。
アラニンをピルビン酸に変化させることで糖新生の経路に乗せている。

 

LDH(乳酸脱水素酵素)

基準値:200~400U/L
局在:LD1とLD2   ⇒心臓、腎臓、赤血球
LD3とLD4とLD5⇒肝臓、骨格筋
半減期:LD1(79時間)
LD2(75時間)
LD3(31時間)
LD4(15時間)
LD5(9時間)
役割解糖系の最終段階で、酸素が足りない条件でピルビン酸を乳酸へ酸化する。
同時にNADをNADHへ還元する。
逆反応も触媒する。

心筋梗塞や溶血との繋がり

LD1、2は主に心臓に分布し、半減期も長いため心筋梗塞で上昇する。
また、赤血球にも含まれるため溶血でも上昇する。

 

これらを組み合わせて判断できること

まずはASTとALTの違いを整理しましょう。

・肝臓への局在 AST<ALT
・肝臓の含有量 AST>ALT
・半減期    AST<ALT

AST/ALT比を見ましょう!

急性肝炎

細胞障害の度合いが大きいため、急性期には含有量の多いASTが多く血中に遊離します。そのためAST/ALTは大きくなります。

慢性肝炎・脂肪肝

細胞障害の度合いは小さいため、半減期の長いALTが多く血中に遊離します。そのためAST/ALTは小さくなります。

肝硬変

線維化していない正常な細胞が少なくなっているため、AST・ALTとも低下します。

細胞数が少ないために、含有量の少ないALTの血中への遊離も低下します。
AST/ALTは大きくなります。

心筋梗塞や溶血

心臓に局在をもつASTが多く血中に遊離します。
AST/ALTが大きくなります。
併せて、LDHも上昇していることが多いです。

 

薬物代謝能の推定

上記の検査値はいずれも細胞からの逸脱酵素で、その細胞の障害度合いを表すものでした。
しかし障害の度合いが必ずしも薬物の代謝能と一致しているわけではありません。

 

慢性肝炎の患者には薬局でも遭遇率が高いですよね。
薬剤師として、どれくらいの代謝能が残っているのか予測できれば、医師の処方の助けになると思います。

 

慢性肝炎を引き起こしているC型肝炎、特にウイルス増殖が激しい際にはγーグロブリン(抗体)が多く産生されるため、アルブミン/グロブリン比(A/G比)が低下しています。

CYP各分子種の酵素活性低下率と同時に測定した血液生化学検査値との相関関係を見たところ、

急性肝障害モデルでは、血清トランスアミアーゼ活性(AST値)の間に、
また、慢性肝障害モデルでは、血清albumin値の間に高い相関関係を認めた。

真野泰成 肝障害時における薬物投与設計法の開発
博士学位論文要旨 論文内容の要旨および論文審査結果の要旨/金
沢大学大学院自然科学研究科, 平成19年3月: 367-371  より引用

ラットのデータではありますが、急性肝障害モデルでは、ASTが高いほど薬物代謝酵素CYPの酵素活性が低くなっています。

一方で、慢性肝障害モデルでは、血中アルブミン濃度が低いほど酵素活性が低くなっています。

以上のことから、以下のChild Pugh分類が薬物代謝能の指標として用いられるのでしょう。

Child Pugh分類

最近では、添付文書に肝障害の度合いを表すChild Pugh分類に合わせた投与量が記載される薬剤が増えてきました。

f:id:yashiki5296:20170621030724p:plain
軽度 :5~6
中等度:7~9
重度 :10~15

肝代謝型か腎排泄型かを見極めて、投与量調節をチェック・提案肝代謝型と腎排泄型薬剤の判断・指標

 

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