添付文書で頻繁に見かける糸球体濾過量(GFR:Glomerular filtration rate)やクレアチニンクリアランス(CLcr)。
それらの違いや使い分けについてまとめています。
ろ過・再吸収・分泌
何はともあれまずは腎臓の解剖と機能のおさらいです。
図のように、排泄される物質は、
糸球体でろ過
尿細管で再吸収
尿細管で分泌
を受けます。
糸球体濾過量(GFR:Glomerular filtration rate)を実測する
腎臓の機能を表すためにはどうするのでしょうか。一番イメージしやすいのは「ろ過」ですよね。
糸球体濾過量(GFR)とは、単位時間あたり(1分間)に、糸球体からろ過された血漿量のことです。
どれくらいの薬物を血漿ごと排泄できたか=クリアランスを表します。
結局のところ、高校の生物で習った、原尿量と同じもの(原尿=糸球体でろ過された血漿)です。
原尿中に捨てられた物質は尿中に排泄されるのだから、
[原尿へ排泄された量]=[尿中へ排泄された量]
このことから次の式がたてられます。
原尿中濃度(mg/dl)×原尿量(ml)
=尿中濃度(mg/dl)×尿量(ml)
ここで、
原尿は糸球体でろ過された血漿のことなので、
原尿中濃度≒血漿中濃度ということを加味すると
なにかの物質に注目して、その尿中濃度と、尿量、血漿中濃度を測定すれば原尿量つまり糸球体濾過量が算出できます。
測定には何を用いるのか?
一番正確に糸球体濾過量を反映するのは、ろ過しか受けないイヌリンのクリアランス(Cin)です。以下はその測定手順を示したものです。
折田義正 イヌリンクリアランス測定法 モダンメディア 53 巻 2 号 2007 33-39 より引用
ゴールデンスタンダードではあるものの、イヌリンの持続点滴、頻回な採血と採尿、そして拘束時間を考えると、実臨床で気軽に実施できるものではありません。
これが使われるのは本当に正確に腎機能を知る必要のある、腎移植のドナー患者さんくらいです。
もっと臨床の現場で実施できる、簡便な検査法が求められました。
もっと簡便な代用となる指標→推測式
イヌリンクリアランスは最も正確に糸球体濾過量を測定できますが、手間が煩雑で時間がかかるのがデメリットでした。
そのためより簡便で、真の糸球体濾過量を近似できる指標が求められました。
それが推測式です。
・推測クレアチニンクリアランス(estimated Creatinine Clearance)
・推定糸球体濾過量(eGFR:estimated GFR)
推測クレアチニンクリアランス
代表的なものは、CockcroftとGaultが18歳以上の成人を対象として推定式をつくった、Cockcroft-Gault式。
クレアチニンは、筋肉に含まれるクレアチンの代謝物。
内因性であるためイヌリン持続点滴は要りません。
血清クレアチニンだけ測定すればいいので採血も1回で済み、診療に用いやすくなっています。
xarelto.jpより引用
こちらは年齢、体重、性別、血清クレアチニン値があれば算出できます。
◆注意点
・式を見るとわかるように、体重が分子にあるため、肥満者では腎機能が高く算出されてしまいます。
・また、血清クレアチニンと体重が変動がないと仮定して、年齢だけ大きくしていくと、腎機能は1歳で1下がる計算になってしまいます。実際にはそんなに毎年下がっていかないので、高齢者ほど低く計算されてしまいます。
・クレアチニンはイヌリンと異なり、分泌もわずかに受けているため、20~30%高く算出されてしまいます。そのため0.789をかけて補正する必要があります。
推定糸球体濾過量(eGFR)
日本腎臓学会が、日本人の多数の患者のデータを用いて、診断に用いるために作成した推算式。
尿量や循環血漿量は体表面積に比例するので、小柄な人ではそもそも濾過すべき血漿量=糸球体濾過量も少ないです。(例:大柄の人のeGFR80は低いかもしれないし小柄な人のeGFR80は十分かもしれません。)
そのため、一般的な標準体型の体表面積1.73m^2で補正してCKDの重症度の診断に用いられます。
こちらは血清クレアチニン値、年齢、性別があれば算出できます。
◆注意点
・投与設計時には体表面積補正を外す必要があります。
上記の通り、標準体型の体表面積で割っているためそれを戻す必要があります。
[研究者・医療関係者の皆さん] ツール – 体表面積、Ccr計算:日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG:Japan Clinical Oncology Group)で体表面積を求めて、eGFR×求めた体表面積/1.73で補正
・小柄で筋肉量が少ないような高齢者では高めに算出されてしまいます。
薬剤師国家試験問題で理解度をチェック!
第100回薬剤師国家試験 問286より引用
76歳男性。体重72kg。先週より腰痛があり、整形外科を受診し神経障害性廃痛の診断を受けた。
同日保険薬局を訪れ処方せんをお薬手帳と共に保険薬局の薬剤師に手渡した。
手帳には以下の記載があり約 2 週間前から胃潰瘍治療薬を服用していることを薬剤師は確認した。
(お薬手帳)
年月日
平成27年2月16日処方内容
処方1)
ファモチジン口腔内崩壊錠 10 mg
1回1錠 1 日 1回 夕食後 30日分処方2)
アズレンスルホン酸 Na・Lグルタミン配合穎粒
1回 0.5g 1日3回 毎食後 30日分
厚生消化器内科医院 厚生次郎平成 27 年 2 月 2 日の検査結果
AST 30 IU/L、ALT 25 IU/L、r-GTP 20 IU/L、BUN 50 mg/dL
血清クレアチニン 3.0 mg/dL今回の処方せんは以下のとおりであった。
(処方)
プレガパリンカプセル 25mg
1回 2 カプセル(1日2カプセル)
1日1回 就寝前 14日分問286
腎機能を評価する上で糸球体ろ過量(値または率、GFR)を最も正確に評価できるものはどれか。1つ選べ。1 血清クレアチニン値
2 血中尿素窒素(BUN)値
3 イヌリンクリアランス値
4 尿中β2 ミクログロプリン値
5 PSP値 (フェノールスルホンフタレイン試験)問287
薬剤師がプレガパリンカプセルの添付文書を確認したところクレアチニンクリアランス(mL/min)
≧60 の場合の初期投与量「1回75mg、1日2回」
≧30-< 60の場合の初期投与量「1回75mg、1日1回」
≧15-< 30の場合の初期投与量「1回50mg、1日1回」と記載されていた。この患者の薬物治療に対する薬剤師の対応として最も適切なのはどれか。1つ選べ。
1 お薬手帳の処方 1 の薬剤とプレガパリンとの併用は禁忌であると考えてお薬手帳に記載された内科医に疑義照会した。
2 お薬手帳の処方2の薬剤とプレガバリンとの併用は禁忌であると考えて今回の処方医に疑義照会した。
3 プレガバリンの投与量が少ないと考えて今回の処方医に疑義照会した。
4 プレガバリンの投与量が少ないと考えてお薬手帳に記載された内科医に疑義照会した。
5 適切な用量の処方であると判断して調剤を行った。
医師国家試験問題で理解度をチェック
第101回医師国家試験 A36より引用
54歳の男性。蛋白尿の精査加療を目的に来院した。13年前に糖尿病と診断され、食事指導を受けたことがある。4か月前の健康診断で尿糖と尿蛋白とを指摘された。
身長165cm、体重67kg。脈拍72/分、整。血圧140/90mmHg。尿所見:蛋白1+、糖(±)、沈渣に異常はない。
血清生化学所見:空腹時血糖130mg/dL、HbA1c 7.5%(基準4.3~5.8)、尿素窒素20mg/dL、クレアチニン1.2mg/dL。血糖コントロールに加えて行う治療はどれか。
a 高蛋白食
b β遮断薬投与
c アンジオテンシン変換酵素阻害薬投与
d 副腎皮質ステロイド薬投与
e 免疫抑制薬投与
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