医師と薬剤師の視点の違い〜ジギタリス中毒を例として〜

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勉強法・覚え方

国家試験問題を解いているとふと、これまで自分が持っていた薬剤師の視点とは変わってきたなと感じることがあります。

まだ医師免許を持っていませんが、医師の視点と薬剤師の視点の違いについて意識することがあります。

外科医でかつ薬局の経営もされている狭間研至先生が仰っていたのは、

医師は解剖学・生理学・病理学

薬剤師は薬理学・薬物動態学・製剤学

に基づいた視点でアプローチしているとのことでした。

これはかなり納得しましたので以下に例を書いてみました。

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医師国家試験を例に

第111回医師国家試験 G63より引用

84歳の女性。失神と眼前暗黒感とを主訴に来院した。

現病歴:1週間前から時々気が遠くなるようなふらつきを自覚していたが、本日、朝食前に突然眼前暗黒感を自覚し意識が消失した。意識はすぐに回復したが、心配になり長女に付き添われて救急外来を受診した。

既往歴:60歳ごろから高血圧症と脂質異常症。75歳ごろから骨粗鬆症と逆流性食道炎。80歳ごろから心不全と心房細動で内服治療中。アンジオテンシンII受容体拮抗薬、スタチン〈HMG-CoA還元酵素阻害薬〉、ビスホスホネート製剤、プロトンポンプ阻害薬およびジゴキシンを処方されている。

生活歴:ADLは自立している。長女夫婦と3人暮らし。喫煙歴と飲酒歴はない。

家族歴:父親が心筋梗塞で死亡。母親が胃癌で死亡。

現 症:意識は清明。身長150cm、体重42kg。体温35.8℃。脈拍36/分、不整。血圧152/70mmHg。呼吸数20/分。SpO2 96%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。心尖部を最強点とするII/VIの汎収縮期雑音を聴取する。呼吸音に異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。下腿に浮腫を認めない。神経学的所見に異常を認めない。

検査所見:尿所見:蛋白(±)、糖(−)、沈渣に白血球を認めない。血液所見:赤血球352万、Hb 11.8g/dL、Ht 36%、白血球5,800、血小板16万。血液生化学所見:総蛋白6.8g/dL、アルブミン3.9g/dL、AST 28U/L、ALT 32U/L、ALP 164U/L(基準115〜359)、CK 45U/L(基準30〜140)、尿素窒素24mg/dL、クレアチニン1.4mg/dL、血糖110mg/dL、HbA1c 5.7%(基準4.6〜6.2)、Na 133mEq/L、K 3.6mEq/L、Cl 97mEq/L。CRP 0.3mg/dL。

まず行うべきなのはどれか。

a 脳波
b 心電図
c 頭部MRI
d 胸部造影CT
e ヘッドアップティルト試験

 

医師の視点

<解剖学・生理学>

・失神→一過性の脳の虚血→心血管の異常の疑い
眼前暗黒感も脳血流減少と矛盾しない

鑑別としては不整脈、急性冠症候群、大動脈解離、肺塞栓症、起立性低血圧など

・突然の胸痛や背部痛などの症状なし
→大動脈解離は否定的

・身体所見:心尖部で最強のII/VIの汎収縮期雑音
→僧帽弁閉鎖不全症の疑い

脈拍36/分、不整→高度の徐脈、不整であり病歴からも心房細動あり

・神経学的所見に異常なし→中枢神経が原因ではなさそう

・尿糖(−)、血糖110mg/dL、HbA1c 5.7%→糖尿病はなく、自律神経障害(=起立性低血圧)は考えにくい

・血液所見ではHb 11.8g/dL→軽度の貧血あり

・尿素窒素24mg/dL、クレアチニン1.4mg/dL→軽度腎機能低下

・呼吸数20/分、SpO2 96%(room air)→肺塞栓症は否定的

上記のことから、中枢神経は問題なさそうなのでa、cは除外。大動脈解離や肺塞栓症も否定的なのでdも除外。起立性低血圧も考えにくくeも除外。

答えはb。

心臓は除外できておらず、迅速かつ簡便に行える点からもbが有用。

薬剤師の視点

<薬物動態学>

・Cockcroft-Gault式より、Ccr=25.79mL/minと高度の腎機能低下

・ジゴキシンは腎排泄型→腎機能低下により体に蓄積→レートコントロールによる徐脈もそれを裏付けている

・ジゴキシンは1.2ng/mL以上では副作用が出やすいため血中濃度の測定が必要な薬剤。作用を増強させるような低K血症はない

・胃酸分泌を低下させるプロトンポンプ阻害薬はジゴキシンの加水分解を抑制→血中濃度が高くなる可能性がある

<薬理学>

・心不全と心房細動の病歴から、その改善目的に強心作用と房室伝導の抑制作用(レートコントロール)を持つジゴキシンが用いられていた

・ジゴキシンは房室伝導を抑制するため、補充調律、盆状ST低下などの典型的な心電図が見られる

以上より、ジゴキシン中毒が疑わしい

心電図で上記の所見を確認していくため正解はb。

視点が違うからこそいい

医師と薬剤師の視点が同じならそれはただのダブルチェックで、両方ともスルーしてしまった場合にブレーキが働かないため、異なる視点を持っていることに意味があるのだと思います。

両方の視点を持つことで確認ができますし、抜けや漏れがないようにクロスチェックできるということが強みになるのではないでしょうか。


 

以上となります。

最後まで読んでいただき有り難うございます。

少しでも参考になれば幸いです。

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