2017年3月30日、塩野義のオピオイド誘発性便秘症治療薬スインプロイク(ナルデメジントシル酸塩)が承認されました。
1日1回の内服薬です。
オピオイド誘発性便秘症とは?
癌性疼痛の緩和に用いられているオピオイドの鎮痛作用は、主に中枢のμオピオイド受容体を介して発現します。
しかし、消化管に存在する末梢のμオピオイド受容体へも作用してしまい、
・消化管運動の抑制
・消化管神経活動の抑制(サブスタンスPやアセチルコリン放出の抑制)
・イオンや腸液分泌の減少
また、便は長時間大腸で留まる中で、水分吸収は進むために固くなります。
オピオイドによる固形便や排便障害,膨満感,腹痛等を伴う便秘が頻発するのでQOLの低下にも繋がっていました。
これまではどう治療していた?
便を軟らかくしたり、腸の蠕動運動を亢進させる治療がされていました。
・浸透圧性下剤(酸化マグネシウム、ラクツロース)
・大腸刺激性下剤(センノシド、ピコスルファートナトリウム)
これまでの治療薬の問題点
しかしながら、これまでの治療薬では長期に使いづらい問題点がありました。
酸化マグネシウム⇒吸収されることによる電解質異常(高マグネシウム血症)
大腸刺激性下剤⇒大腸が刺激に慣れるため、長期連用による耐性化および習慣化
腹部膨満感
スインプロイク(ナルデメジン)の作用機序
消化管の末梢μオピオイド受容体に結合してオピオイド鎮痛薬と拮抗することで、オピオイドによる便秘を改善します。
脂溶性をできる限り下げ、分子量を500以上にして血液脳関門の透過性を低下させているため、中枢μオピオイド受容体の作用は阻害しないようです。
スインプロイク錠 添付文書より引用
副作用
224例中67例(29.9%)で主な副作用は
下痢(21.9%)、腹痛(2.2%)。
消化管閉塞の疑いや既往歴がある患者には消化管穿孔の危険性が高まる恐れがあるため、投与しない。
当然のことですがオピオイド拮抗薬であるため、オピオイドの投与を中止する場合には、本薬の投与も中止する必要があります。
スインプロイクの特徴
食後でも吸収量は変わらないが、吸収時間が遅延
反復投与では2日以内に定常状態に達します。
半減期はおよそ10時間。半減期を4~5倍すると定常状態に入るといわれているのでそれに従うようです。
排泄は肝・腎にあまり影響されない
[Carbonyl-14C]-ナルデメジン及び [oxadiazole-14C]-ナルデメジン 2mg をそれぞれ健康成人男性 6 例に空腹時単回経口投与したとき,[oxadiazole-14C]-ナルデメジン投与では投与された放射能の 57.3%及び 34.8%がそれぞれ尿及び糞中に排泄され,[carbonyl-14C]-ナルデメジン投与では投与された放射能の 20.4%及び 64.3%がそれぞれ尿及び糞中に排泄された。投与量の約20%が尿中に未変化体として排泄された。
バイオアベイラビリティはおよそ30%なので、
尿中未変化体排泄率=0.2/0.3≒0.67
腎排泄型寄りなのか?
ただ、バイオアベイラビリティがヒトのデータがなく、ラットの参考データを用いたので不正確です。(ラットとは消化管の長さ、消化管や肝臓に発現している代謝酵素の割合も異なるため)
Carbonylとかoxadiazoleで2種類で放射線標識しているのは、
代謝される際に結合が切られて構造が分かれるので、切れた構造を2つとも追跡するためのようです。
ラットデータからの計算では腎排泄寄りかと思われましたが、
実際に肝障害・腎障害患者でのデータを見ると、いずれの患者でも大きく排泄が障害されている様子はありませんでした。
添付文書の用量の項目にも、肝障害・腎障害についての記載もありません。
参考文献
・オピオイドによる副作用と対策-消化器系の副作用と対策 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2010
ガイドライン|日本緩和医療学会 – Japanese Society for Palliative Medicine
・スインプロイク錠 インタビューフォーム
https://www.shionogi.co.jp/med/download.php?h=db3b979b1815b63a8f057071a043669f
コメント