名前は似てるし、違いもよくわからないとのご質問をいただきましたので、ポイントをまとめてみました。お力になれれば幸いです。
目次
そもそもカテコールアミン(カテコラミン)とは
アドレナリンもノルアドレナリンもどちらもカテコラミンです。
じゃあカテコラミンは何なのかというと、
赤丸のOH基が2つ結合したベンゼン環=カテコール基、それに緑丸のアミンが結合したもの=カテコールアミン(カテコラミン)
この分類が何の役に立つのかというと、
カテコラミンはMAO(モノアミンオキシダーゼ)と、COMT(カテコールアミンーOーメチルトランスフェラーゼ)によって速やかに分解を受けるため、作用時間が短く、経口投与しても無効ということ。だから注射剤しかありません。
また血液脳関門を通過しないので末梢血管に投与しても中枢作用はありません。
アドレナリンとノルアドレナリンの違い
お待たせしました。本題に入ります。
<基礎医学の観点から>
生体内の物質としての違いは以下のとおりです。
アドレナリン :副腎髄質ホルモン
赤丸は、前駆物質から何が変わったのかをマークしています。例えばノルアドレナリン→アドレナリンではメチル基が付加されています。
これを行うのはフェニルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼというメチル基転移酵素で、主に中枢神経と副腎髄質に存在します。
そのためアドレナリンは副腎髄質からホルモンとして血中に放出されます。
<臨床医学の観点から>
医薬品としての違いは以下のようになります。
ノルアドレナリンはα作用>β作用の効果を持ちます。→α1>β1 ≫ β2(β作用はほぼない)
どっちがどっちかわからなくならないようにゴロもつくっておきました。
アドレナリンとノルアドレナリンの使い分け
それぞれの薬剤のα作用、β作用のどちらが優位なのかが分かれば、あとは疾患の病態と組み合わせて使い分けていきます。
薬の作用と病態の知識両方が必要です。
敗血症性ショック
細菌感染による全身性炎症反応症候群である、敗血症。
病理で習ったように、炎症では血管透過性が亢進かつ血管拡張が起こりますよね。末梢血管抵抗が下がり、代償的に心拍が亢進している病態なので、血管だけに作用してほしいため、主にα1作用のみのノルアドレナリンが用いられます。
アナフィラキシーショック
アナフィラキシーショックは感作された抗原の再侵入によりヒスタミンが大量に放出されて血圧低下、気管支収縮が起こる病態です。
血管と心臓、気管支平滑筋のいずれにも効くように、α作用とβ1、β2作用を同程度持つアドレナリンが選択されるわけです。
β1作用が強いため心停止に用いられますが、一方で頻脈や不整脈を引き起こしやすいため心疾患患者には用いにくい薬剤です。投与方法にも注意してください。
・心停止→静注
エピペン®ガイドブック より引用
アドレナリン皮下注射、筋肉内注射、静脈注射の違い・使い分け
国家試験で理解度をチェック!
医師・薬剤師ともに必須の知識となります。しっかりおさえておきましょう。
薬剤師国家試験
第101回薬剤師国家試験 必須問題 問63
ハチ刺され等に起因するアナフィラキシー反応に対し自己注射で用いられる昇圧薬はどれか。1つ選べ。
1 ドブタミン塩酸塩
2 ドパミン塩酸塩
3 フェニレフリン塩酸塩
4 アドレナリン
5 イソプレナリン塩酸塩
問われやすいところですが上記のゴロで軽く解けますね。
答えは4です。α1刺激とβ1刺激により循環不全を、β2刺激により呼吸不全を改善できます。
アドレナリン以外ではα作用、もしくはβ作用のどちらかしかありませんので不適です。
医師国家試験
第111回医師国家試験 H問題 問10
敗血症性ショックに対する循環器作用薬の第一選択となるのはどれか。
a. アトロピン
b. アドレナリン
c. イソプロテレノール
d. ドパミン
e. ノルアドレナリン
末梢血管を締めて心臓への静脈還流量を増やしたいため、α1作用のあるノルアドレナリンが正解です。正解はeです。
第112回医師国家試験 B問題 問33
59歳の男性。左腎細胞癌の診断で腎部分切除術を受け入院中である。手術2時間後にドレーンから血性の排液があり、意識レベルが低下した。JCS II-20。脈拍152/分、整。血圧56/42mmHg。呼吸数16/分。SpO2は測定できなかった。腹部は軽度膨満している。血液所見:赤血球218万、Hb 5.0g/dL、Ht 18%、白血球9,300、血小板15万。
次に行うべき処置として誤っているのはどれか。
a.酸素投与
b.赤血球輸血
c.血小板輸血
d.細胞外液の投与
e.ノルアドレナリン投与
腎臓は血液をろ過する臓器であるため血が多い臓器です。
術後の出血により循環血液量減少性ショックを呈していると考えられます。ノルアドレナリンは末梢血管を締めて静脈還流量を増やす作用があるということは上で述べた通りなのでこの患者さんの病態に適しています。
バイタルや検査値からすると血小板は基準値に収まっているのでcが誤っています。
アドレナリン反転について
ここまで理解できれば、次のアドレナリン反転についてもスムーズにわかると思います。記事が長くなってしまうので別記事にしておきました。
禁忌にも関わる重要な概念ですので、しっかりおさえておきましょう。
副交感神経による血管拡張もおさえておく!
アドレナリンは交感神経の伝達物質ですが、副交感神経の伝達物質はアセチルコリンです。どうやってアセチルコリンが血管を拡張するのかについても確認しておきましょう!